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【書評】朝井リョウ「世界地図の下書き」-朝井リョウは向日性の作家だ。その小説は生きていく勇気を与えてくれる

 直木賞を獲った「何者」しか知らない読者、デビュー作「桐島、部活やめるってよ」は読んだぞ、という読者にとってはちょっと物足りない作品かもしれない。単なるめぐり合わせでこれが「受賞第一作」になったのだろうが、この小説を「第一作」として発表した朝井リョウは、本当に肝が座った作家だと思う。彼の小説の中では「星やどりの声」に連なる一冊。朝井リョウはこういうストレートな物語も書くのだ。しかも、巧い。

 

 舞台は「青葉おひさまの家」という施設だ。そこに太輔という小3の男の子が入ってきたところから物語は始まる。彼は両親を事故で亡くしている。同じ班には、中3でまとめ役の佐緒里、小3の淳也と小1の麻利の兄妹、小2の美保子、太輔をあわせて5人がいる。それぞれ預けられた事情があり、それでも元気よくがんばっているように見える。これが「3年前」と題された第1章。

 

 その後の2〜5章は3年後の「晩夏」から「春」までの半年が描かれる。太輔は小6になり、佐緒里はいよいよ高校卒業だ。この2章以降で各々の現在と過去がより詳しく描かれていく。太輔の孤独は深く、夢へと向かう佐緒里の前にもまた…。他の3人にも3様の悩みと痛みがある。

 

 朝井リョウは感動の押し売りをしない。しかし、「人はけっして一人ではないし、どこかで自分を待っててくれる人がいる」というメッセージは確実に伝わってくる。それは、5人のキャラクターが本当にキチンと描かれているからだ。彼らの心の微妙な揺れが読む者をしっかりととらえる。

 

 ラスト、卒業する佐緒里に対して子どもたちがとった突拍子もない行動。読み進めていくうちにその光景が目の前にわ〜っと広がり、なんだかたまらなくなってしまった。朝井リョウは向日性の作家だ。その小説はいつも、生きていくための勇気を与えてくれる。

 

◯この本は2016年6月、集英社文庫で文庫化されました。

◯朝井リョウのその他の本のレビューはこちら

 

 

 2013.9.4 あっ、9月。諸般の事情で、というか、母がまた脳梗塞で倒れたり、通っているバリアフリー字幕制作講座の課題に四苦八苦したりで、更新も読書も遅れ気味。すみません。読んでるのは、宮部みゆき「泣き童子」。巧い!

 

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