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【書評】窪美澄「さよなら、ニルヴァーナ」-自分の中でうまく消化できなかった「少年A」の物語

 

さよなら、ニルヴァーナ さよなら、ニルヴァーナ
窪 美澄

文藝春秋 2015-05-28
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 窪美澄は大好きなのだけど、この小説にはうまく入っていくことができなかった。1997年に起こった神戸の連続児童殺傷事件がモチーフになった物語だ。事件がそのまま扱われているわけではない。しかし、これはやはり「少年A」の物語で、舞台も神戸。犯行現場もそのままだ。どうもそのあたりの諸々を、自分の中でうまく消化することができないのだ。

 

 4人の語り手が登場する。小説家志望の女性今日子、ネット情報から少年Aに憧れる少女莢(さや)、少年Aに娘を殺された母親なっちゃん、そして、少年Aであった青年倫太郎。話が進むに連れて、この4人はどこかで繋がり、そこに新たな物語が生まれる。中盤過ぎでなっちゃんが「(娘の)光があの子に殺されたのは、ほんとうに不幸なことだっんだろうか。」と考えるところでは戦慄した。作者はなっちゃんにしっかりと寄り添っている。しかし、寄り添いすぎてこんな言葉まで母親に吐かせているのはちょっと恐ろしい。

 

 この物語で僕が共感できるのは小説家志望の今日子だけだ。小説教室に通いながら講師の男と関係を持ち、文学賞では最終選考に残り、そのうち教室の古株になって「女王」なんて呼ばれている女。東京の暮らしに見切りをつけ故郷に帰ったならば、母と妹夫婦とのどうしようもない日々が待ち受けていて、絶望しながらも小説家への未練を断ち切れない女。故郷の町の近くに青年になった少年Aが暮らしてるらしいと知ってしまった女。最終章である「終曲」は彼女の語りで書かれている。これが何とも凄まじい。

 

 ここで語られるのは今日子の述懐であると共に、小説家窪美澄の心の叫びでもある。彼女がこの物語を苦しみながらも書き続け、もっともっと「人の中身が見たい」と思い、さらに書き続けていこうと決意していること。「自分が見た地獄など、地獄の入口ですらない」「ならば、もっと地獄に行こう。もっと深くて、もっと暗い、地獄に下りていこう」と語る今日子。ううむ。とにもかくにも、これからも僕は窪美澄の物語を読み続けていくだろう。数年経って読んでみたら「さよなら、ニルヴァーナ」への自分の思いは変わっているのだろうか。

 

◯この本は2018年5月、文春文庫で文庫化されました。

 

◯窪美澄のその他の本のレビューはこちら

            

2015.7.27 梅雨が明けた途端にやたらと暑くなっちゃったじゃないか。ドラマ「民王」がおもしろい。読書は朝井リョウの「武道館」。

 

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