同じ幼稚園に子どもを通わせている5つの家族の物語。窪美澄の小説は直接それを描いていなくても、根底にはいつも家や家族がある。夫と妻、親と子、さらには、祖父や祖母の存在。彼女が描く家族、それは、女性の立場から一方的に描かれたものではない。この短編集でも5つのうち2つが「夫」の一人称で書かれているのだが、彼らの生き方、社会人としてのありよう、妻との関係、交わされる会話、どれもが間違いなく「男」であり「夫」なのだ。
窪美澄は常に家をみつめ、家族を考え、夫と妻、親と子の関係に思いを馳せている。だからこそ、その登場人物も物語もリアルで、読む側は強く共感するのだ。彼女の読者は女性が多いのだろうけれど、一人でも多くの男性に読んでもらいたいと僕は切に思う。
理想的な家族、そんなものはどこにもないだろう。ここに出てくる夫婦もトラウマや不安や情けなさやいろいろなものを抱えていて、関係もギクシャクしている。そんな中でも彼らは、何とか希望を見出して家族として生きていこうとしている。同じだ、私たちと同じだ、この家族、この妻、この夫、この子は同じだ、そう思うことで僕らは救われ、勇気をもらえる。
窪美澄はやっぱりいい。今年のマイベストに間違いなく入る1冊。最後の1編「かそけきサンカヨウ」、女子高校生となさぬ仲の母、実の母の話。そのストーリーとサンカヨウの透明な花の美しさが掉尾を飾るのにふさわしい。
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○この本は2017年5月、角川文庫から文庫化されました。
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◯サンカヨウの花、ってこんなの。
2014.12.17 校正が‥。ああせいこうせいで、もう何だか‥。やることばかりが増えている。読書は宮部みゆき「荒神」。
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