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【書評】カズオ・イシグロ「夜想曲集」-吐息のように音楽が流れる!カズオ・イシグロ初めての短篇集

 カズオ・イシグロは世界がその最新作を待ち望む作家の一人だ。「夜想曲集」と名付けられた初の短編集は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という副題が付いている。各話の主人公は往年の名歌手や無名のミュージシャン。彼らは何らかの問題を抱えている。

 

 そんな音楽家たちにからんでくるもう一人の人物がいる。その関係がなかなかおもしろい。例えば、往年の名歌手の物語にはカフェバンドでギターを弾く共産圏出身の男が、離婚の危機を迎えている夫婦の物語にはスタンダードジャズを愛する定職を持たない男が、無名ながら才能を感じさせるチェリストの物語には自らの才能を守るためにチェロに触れることさえしない中年女がそれぞれ登場する。どの話も出てくる人物は少なく、会話中心に物語は進んでいく。さすがイシグロというか、まったく飽きさせないし、先の展開が気になりページを繰るのももどかしい。

 

 5つの短篇を通して読むとこれは結局、コミュニケーションと才能の物語なのだと気がつく。才能のあるものとないもの、成功したものとそうでないもの、彼らは互いを理解できたのか、できなかったのか、それとも理解しようとしなかったのか。物語のバックでは吐息のように音楽が流れ、なんともせつない。巻を置いてもその音は頭の中でいつまでもいつまでも流れ続けているような気がする。

 

 

◎「夜想曲集」は2011年2月4日、ハヤカワepi文庫で文庫化されました。

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