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【書評】小林信彦「四重奏 カルテット」-互いが響き合い相乗効果を生み出す4つの物語

 すでに世に出ている4つの中編をひとつのテーマでまとめた作品集だ。すべて実名で書かれた「夙川事件」、そして「半巨人の肖像」「隅の老人」「男たちの輪」という魅力あふれる作品が収録されている。これらはどれも小林信彦が江戸川乱歩の宝石社に在籍していた頃の話だ。筆者がこの時代のことをいろいろと書いているのは、ファンならば周知の事実だろう。再録ではなく、今の視点でもう一度この頃のことを書いて欲しい、という気もしないではないが、4編をまとめて読むとやはりすこぶるおもしろい。まあ、江戸川乱歩が編集した「宝石」、そして小林が26歳で創刊をまかされた「ヒッチコック・マガジン」、その周辺の話がつまらないなんてことは絶対にないのだけど。

 

 この4つの小説は、カルテットというタイトル通り、互いが響き合い不思議な相乗効果を生み出している。50年代末から60年代初めの出版界、その実態とそこに生きる人々の実像。そのただ中にいて違和感を持ちながら生きている筆者。乱歩ももちろんだが、過去の栄光をどこかで忘れられない校正者や地位を得ることで豹変する編集者など、この時代の人間たちにはとても心惹かれる。少しグレイがかった時代の空気の中で、彼らは本当に人間らしく生きている、そんな感じがするのだ。

 

◯小林信彦の他の作品の書評はこちら

 

 

2012.11.6 日本シリーズも終わっちゃったし、なんだかつまらないな。え〜っと、読書は「かなたの子」が終わり、松家仁之「火山のふもとで」。

 

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