また、本の話をしてる

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.6/3週)

 さて、出る本。原田マハ「いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画」(6/16)が集英社新書から出ます。ジャクソン・ポロックの絵をテーマにした小説「アノニム」が出たばかりですが、原田さんのアート小説は元キュレーターだけあって読み応えたっぷり。そんな原田さんがこのタイトルで書いた新書となるとちょっと気になります。

 

 さらに文庫化が2つ。1つは2015年の本屋大賞を受賞した上橋菜穂子の「鹿の王」(6/17)1巻と2巻が出ます。単行本は上下2巻だったので6月発売分は上巻分でしょう。いずれにしても、この小説はおもしろいですよ。前のブログに書いた感想を引用してみますね。

 

◇2人の男を通して描かれる、力強い生命の物語。

 

 今年の本屋大賞受賞作。作者の志の高さを強く感じる物語だ。「鹿の王」は単なるファンタジーではなく、医療ミステリーであり、冒険小説であり、人間小説でもある。

 舞台は大帝国・東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファ領。そこには元々の住民、東乎瑠からの移住民、さらには「火馬の民」などの辺境の民がいる。それぞれの思惑が絡み合い、それはまるでこの世界の紛争地の縮図のようにも思える。そして、主人公の2人。1人は「欠け角のヴァン」。妻と子を亡くし、絶望から死に場所を求めていた戦士団「独角」の頭。もう1人は高度なオタワル医療を受け継ぐ医術師ホッサル。犬の群れの襲撃から起こった病でなぜか生き残ったヴァンがもう1人の生き残り幼子ユナと逃亡の旅に出る。ここから物語が動き出す。彼らを待っているのは…黒狼熱、犬の王、沼地の民…。そして、2人を追うサエという後追い狩人の娘の存在。

 犬に噛まれたことでその身体に異変をきたしたヴァン、病の治療法をなんとか見つけ出そうとするホッサル。2人の存在とその在りようはこの物語の中でも際立っている。ウイルスの話が人間世界とシンクロし、さらに深遠な物語世界を造り出す。圧巻なのは下巻の半ば辺りから。病のこと、命のことを主人公たちが語る長い場面、そして、驚きの謎解きとヴァンの決断!

 絶望の縁にいて、もう生きていたくないと思っていた男が最後にとったこの行動は、読むものの心を強く打つ。それはまさに、作者が放つ生命に対する力強いメッセージだ。「生命」そのものを描いて、これは忘れることができない物語になった。

 

 あぁ、なんかこの感想を読んでいるうちにまた読み直したくなってきた。未読の人は文庫でぜひぜひ!

 

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【映像化】朝井まかての傑作「眩(くらら)」が宮崎あおい主演でドラマ化!

 おぉ、これはうれしい。このブログでも紹介した朝井まかての傑作「眩(くらら)」がNHK総合でスペシャルドラマになります。放送日は9月18日。タイトルは「「眩(くらら)〜北斎の娘〜」です。

 

 原作の「眩」は葛飾北斎の娘・お栄(葛飾応為)を主人公にした小説で、ドラマでは宮崎あおいが演じます。北斎役は長塚京三、他の出演者は松田龍平、三宅弘城、余貴美子、野田秀樹ほか。脚本は「あさが来た」などの大森美香。まだちょっと先だけどこれは楽しみだなぁ。原作の書評はこちらから。興味ある人はぜひ読んでみてください。

 


 とんでもない男を父親に持ちながらも、自分らしい表現を求めてのたうちまわる1人の女絵師の姿を丁寧に描いたこの物語。脚本は大森美香だし、きっといいドラマになると思います。楽しみ、楽しみ!!!番組の紹介ページはこちらです。

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【書評】又吉直樹「劇場」-ゴロゴロとした魂の有り様が読む者の心に突き刺さる

 主人公の永田は高校を卒業後に劇作家をめざして上京、下北沢で小さな劇団を始める。冒頭のシーンが印象的だ。真夏の午後、朦朧としたままあてもなく歩き続ける永田は、とある画廊の前で中の絵をのぞき込んでいた。同じく中を見ている女性に気づいた彼は、何か感じるものがあったのか、警戒して逃げ出した彼女を追いかけ、分からないことを口走り続け、最終的に彼女と知り合いになってしまう。めちゃくちゃだ。この女性がヒロインになる服飾専門学校に通う沙希。この冒頭部分ですでに永田という男の自意識の強さと危うさ、そのために人との関係がうまく作れないことが分かる。

 

 これは演劇に対しても同じで、思っていることをうまく表現できなかったり意識がねじ曲がってしまったり、他人から見ると理解不能の方向へと進んでいってしまう。最初は救いでもあった沙希との関係もしだいしだいにおかしくなっていく。又吉直樹がすごいのは、この哀しい男の心情をあらゆる言葉を使って、丸ごと表現しようとしているところだ。ゴロゴロとした魂の有り様が読む者の心に突き刺さる。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.6/2週)

 さて、出た本。5月に出ていた辻村深月「かがみの孤城」、「王様のブランチ」の読書コーナーでも紹介されていました。辻村さんは「島はぼくらと」がよかったなぁ。ブランチを含めてこの小説の評価、かなり高いです。アマゾンの紹介文を引用してみますね。

 

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

 

 こころ、というのは主人公の女の子の名前です。特設サイトもあるので読んでみてください。ううむ、これは気になるぞ!

 

 

 出る本。「小川洋子の陶酔短篇箱」(6/6)が文庫になります。川上弘美の「河童玉」、泉鏡花「外科室」など、小川洋子がセレクトした16の短篇と解説エッセイによるアンソロジー。ここでもまた小川洋子ワールドを堪能できそうです。

 

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【映像化】映画「この世界の片隅に」BD/DVD、9月15日発売!

  というわけで、まだまだロングラン中、観客動員200万人まであと少しまで迫っている「この世界の片隅に」ですが、ブルーレイとDVDの発売が9月15日に決定しました。おぉぉぉ。

 

 アマゾン限定版を含めていろいろなバージョンがあるようなのですが、ブルーレイの特装限定版にはメイキングやトークイベント映像などを収めた240分の特典ディスクや100ページにも及ぶブックレットが付くようです。普通のDVDにも映像特典、音声特典、ブックレットが付いています。

 

 シンプルなDVDとブルーレイの特装限定版をとりあえずリンクしておきます。他のディスクについてはリンク先で検索してみてくださいね。ぼくはあまりDVDなどを買って手元に置いておきたい人間ではないのですが、これは永久保存しておきたいなぁ。ううむ。

 

 

◯「この世界に片隅に」映画の感想を書いています。

 

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【書評】窪美澄「やめるときも、すこやかなるときも」-変わることのない人間を見つめるその鋭くも優しいまなざし

 主人公の男女に対して共感ももちろんあるのだけど強い反感もある。なぜなのか?それは彼らが持つ感情が自分の中にも間違いなくあるからだろう。それを認めたくないからザラザラした感情が生まれてしまう。


 若き家具職人の須藤壱晴は、友人の結婚パーティで本橋桜子という女性と知り合う。しかし、この出会い、目覚めた時には自分のアパートのベッドの中で昨夜の事はなにひとつ覚えていない。これは桜子も同じで、彼女にもその夜の記憶はないのだった。主人公はこの2人。壱晴は32歳、桜子も同じ歳でパンフレット製作会社の営業をやっている。
 

 偶然にもその後、2人は仕事上のつながりができる。桜子は早く結婚したいと思っている。結婚して家を出たい。壱晴のことを何も知らない彼女だが身近にいる彼に対して「大きな獲物を前にしたハイエナみたいに奮い立つような気持ちになる」。といっても彼女は奥手でそれまでに付き合った男は1人しかいない。壱晴は過去の恋が大きなトラウマになっている。そのためにある時期になると声が出なくなってしまう。桜子という女性はその恋の相手と境遇が似ている。だから気になってしまうのだ。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.6/1週)

 さて、6月になりますね。出た本、ヒグチユウコ「BABEL Higuchi Yuko Artworks」が気になります。東京都美術館で開催中の「バベルの塔」展にあわせて作られた作品集。「バベルの塔」を描いたブリューゲル1世や奇想の画家ヒエロニムス・ボスなどの絵を元にヒグチユウコが彼女なりの世界観で様々な作品を描いています。これは気になるなぁ。

 

◯ヒグチユウコのオフィシャルページも見てみてください。

 ◯原画展やってます。5月31日まで!

 

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