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【書評】宮部みゆき「この世の春」-凍え死にそうな冬の季節を生き延びたひとつの魂の物語

 最初から緊張感のある場面が続き、読み進めていくうちに状況がわかってくる。そして、この物語の核となる部分が明らかになる。いやぁ、驚いた。江戸時代を舞台にこういうテーマで小説を書くのか?これを思いついた時、さすがに宮部さんも「おぉぉ」と思ったことだろう。しかし、アイデアを思いつくだけなら誰でもできる。大切なのはこのテーマをどのような物語に仕上げるか。そこで宮部みゆきが考えたのは。

 

 宝永七年(1710年)下野北見藩で起こった政変から物語は始まる。若き藩主であった六代目の北見重興が心の病のためにその座を奪われる。それも「押込(おしこめ)」という形で。押込とは家を守るために問題のある主君を強制的に監禁することだ。いったい重興に何が起こったのか?心の病とは何だ?

 

 そんな騒動に主人公の多紀も巻き込まれていく。彼女は訳あって前藩主が幽閉された「五香苑」で重興に仕えることになるのだ。多紀はここで身近に接することになった、重興の「今」を知り驚愕する。それは、共に仕えることになった元江戸家老の石野織部、医者の白田登も同じだ。これはいったい何なのか?重興はなぜこんなことになってしまったのか?何が原因で起こったことなのか?しだいしだいに物語は核心に迫っていく。

 

  しかし、この物語、けっして単純ではない。多紀の母の里である出土村の「御霊繰(みたまくり)」の話、その一族の存亡の話、さらに城下で起こった子供たちの神隠し…。謎は多く、それらがどうつながっているのか、もつれた糸はなかなかほどけない。

 

 「この世の春」は幼い頃から苦しみ震え、まさに凍え死ぬような冬の季節を何とか生き延びてきたひとつの魂の物語だ。その魂はようやく春を迎えすべてから解放される。その魂にそっと寄り添い、何とか助けになるようにと心を砕く多紀の姿が美しい。彼女や織部、白田が重興と少しずつ心を通わしていくところもまた、この物語の読みどころだろう。多紀の従弟である半十郎、女中のお鈴やおごう、奉公人の寒吉など重興の側で暮らす者たちの姿もまた強く心に残る。宮部みゆき作家生活三十周年の記念作品、

 

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