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【書評】宮部みゆき「希望荘」-人間の心の奥底にある闇の部分にまで踏み込んでいく強さ

 「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」に続く杉村三郎シリーズの最新刊だ。前作の終わりで杉村は今多コンツェルンのムコ殿の立場を捨て妻と離婚して一人ぼっちになった。さて、どうするのか?最初の興味はそこにある。彼は調査会社の調査員をやりながら私立探偵事務所を開いている。これはまぁ、予想された展開だ。

 

 「希望荘」は4つの物語からなる連作短編集。それぞれが巧みな作りで読ませる。亡くなったはずの老婆を街で見かけたという人からの依頼で捜索を始める「聖域」、死んだ父親の「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査する表題作「希望荘」、夫が不倫して出て行ってしまった夫婦の謎に迫る「砂男」、そして、震災で行方不明になった男の安否を探る「二重身」。短い物語でもこれだけのものが書けるのは、作者が人間の心の奥底にある闇の部分にまで踏み込んで描いているからだろう。

 

 さらにこれらの物語では、中心となる人物を描いてきてグッとズームになった瞬間にカメラが少しだけパンして別の登場人物を映し出す。その展開の見事なこと!そこにこそ物語の真実があり、人間の真実がある。やっぱりスゴイぞ、宮部みゆき!

 

 杉村からいろいろな足かせがとれて身動きがラクになった。このシリーズこれから先がさらにさらに楽しみだ。

 

◯この本は2018年11月、文春文庫で文庫化されました。

◯宮部みゆきのその他の本のレビューはこちら

 

2016.7.18 九州から東海にかけて梅雨明け。東京、今日はむし暑い。読書は朝井まかて「眩(くらら)」。

 

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