ディープなセレクトで人気の新潮クレスト・ブックスの一冊。著者のリュドミラ・ウリツカヤは今ロシアで最も活躍している人気作家の一人、この小説で一躍脚光を浴び、その後も話題作を書き続けている人だ。
この物語の主人公ソーネチカは、少女時代からひたすら本を読んできた「本の虫」。容貌はさえないが、反体制的な芸術家ロベルトに見初められ結婚する。ソビエト政権下で流刑地を移動するような貧しい生活。そんな中でも彼女はちょっとしたことに喜びを見いだし「なんて幸せなんだろう!」とつぶやく。著者のウリツカヤは、波瀾万丈ともいっていい彼女の人生を、静かに見つめ、静謐なタッチで描く。そして、物語の後半、ソーネチカは人生最大ともいうべき裏切りにあう。大きなショックを受ける彼女だが、そのうちすべてを受け入れ、またまた「なんて幸せなんだろう!」とつぶやいている。読んでる側としては、ちょっとちょっと、それはないんじゃない!と思ったりもするが、この彼女の生き方というか感性は、幼い頃からの読書から生み出されたものに違いない、と気づきなんだか納得してしまうのだ。
孤独な晩年、それでも彼女は、毎夜「甘く心地よい読書の深遠に、ブーニンの暗い並木道に、ツルゲーネフの春の水に、心を注ぐ」。本とともに生きた幸福な女の物語だ。
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