ベンガル人の両親を持ち、2歳の時からアメリカで育ったジュンパ・ラヒリ。英語で綴った小説「その名にちなんで」「見知らぬ場所」「低地」などで高い評価を受けた彼女だが、イタリアに移住し、しかも、イタリア語で物語を書き始めた時は本当に驚いた。その顛末はエッセイ集「べつの言葉で」に詳しいのだが、ラヒリが英語で書いた移民たちの物語は自らのアイデンティティを探すためのものだった。では、「わたしのいるところ」はどんなテーマで書かれたのか?読む前から興味が尽きない。
長編小説ということになっているがこれは46の掌編から成るちょっと変わった作りの物語だ。主人公の「わたし」はイタリアの街の大学で働いている45歳の独身女性。「歩道で」「仕事場で」「トラットリアで」と続く小さな物語の中で、彼女は元恋人や友人や街の人々と出会い、言葉を交わし、時々あまりうまくいっていない母親の元にも出かけていく。
人の中にいても街の喧騒の中にあっても彼女の孤独は色濃い。「孤独でいることがわたしの仕事になった」と思っているが、一方で「自分の時間と空間を自由にできる一人の暮らしがわたしはありがたい」とも感じている。同じように一人で暮らす母親のように彼女は孤独を恐れたりはしない。けっして強いわけではない。かといって、弱くもない。いろいろと迷いながらも、すべてを受け入れて日々を生きている。
読者である僕たちはトラットリアの席に座って窓越しに彼女を見ている。あぁいつものあの人だと思い、少しだけ微笑む。その人の姿をずっと見ていたい、なぜかそんな気持ちになっている。その凛とした佇まいが生きる希望だと感じたりもするのだ。
DATA◆ジュンパ・ラヒリ「わたしのいるところ」(新潮クレスト・ブックス)1700円(税別)
◯「べつの言葉で」の書評はこちら
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
その孤独の深さが
彼女の人生を支えている。
2019.10.3 10月になっちゃった。スポーツイベントがいろいろあってついつい見ちゃう。読書は川上弘美「某」。ううむ。
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