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【ノンフィクション/感想】門田隆将「なぜ君は絶望と闘えたのか」-光市母子殺害事件、夫を支えた周囲の人々とその真実

 こういうたぐいの本はあまり読まないのだが、このノンフィクションは珍しく読んでみたいと思った。テレビで幾度となく見た本村さんの姿とその言動に心を動かされていたからだ。もう一度、あの事件と裁判の全貌を知るとともに彼の心の軌跡を追ってみたい、死刑判決が下るまでの9年間、心の支えとなっていたものはいったい何だったのだろう?

 

 当たり前のことだが、彼もまた強い人間ではなかった。事件の後、会社を辞めようとしているし、なんども自ら死のうと思っている。すべてに絶望した男をまさに死の淵から救い出したのは周りの人々だった。退職しようとした彼に「労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。君は、社会人たりなさい」と諭した上司とのエピソードが特に印象に残った。彼の闘いはけっして孤独な闘いではなかったのだ。 

 

 犯罪被害者、という立場について書かれてる部分も心に残った。犯人側は保護されているのに被害者は最初から実名で報道される。刑事訴訟法には被害者の権利は書かれておらず、法廷に遺影さえ持ち込めない。本村さんは犯人とだけではなく、様々なおかしさを正すために国や司法やマスコミとも闘わざるを得なかった。そういう理不尽なものへの怒りが彼を強くしたとも言えるだろう。死刑制度について考える意味でも価値ある一冊だ。

 

◎「なぜ君は絶望と闘えたのか」は2010年8月、新潮文庫から文庫化されました。

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