05年の第132回直木賞受賞作品。専業主婦の小夜子の物語と高校生の葵の物語が交互に描かれる。このスタイルがとても効果的だ。小夜子の物語は現代、葵の物語は過去。そして、小夜子の物語には35歳になった葵が登場する。
「対岸の彼女」とはなんともうまいタイトルだ。現代の2人はまさに「対岸」にある。小夜子は子育てと姑のいやみに疲れ、周りともうまくやっていけない主婦。一方の葵は旅行事務所を切り回す明るくパワフルなビジネスウーマン。小夜子が再就職を決意し面接に行ったのが葵の会社だったのだ。しかし、タイトルの意味はそれだけではない。対岸にいるような葵は、実は高校時代は小夜子と同じ岸にいたのだ。その葵がどうして今の葵になったのか。そのプロセスを一方で描きながら、もう一方では現代の2人の友情と亀裂を描いていく。現代と過去が交互に語られるスタイルだからこそ、物語はよりリアルでスリリングになったと言える。過去の葵の物語が確実に現代の物語を支えているのだ。
物語の後半で小夜子は何度も自分に問いかける。「なんのために私たちは歳を重ねるんだろう」と。その答えがこの小説のラストにある。向こう岸へと、力強くオールを漕いで渡る勇気をこの物語は与えてくれる。
2010.7.7 七夕、でもこちらは雨。それにしても「暑い梅雨」である。なんだか夏になる前にバテちゃいそう。ネットでは風邪ひいてる人の話がけっこう多い。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。