直木賞を受賞した中島京子の「小さいおうち」、これは戦前戦中の一般家庭に女中として入ったタキという女性とその家の奥様、時子との交流を描いた物語だ。一章から七章まではタキの語りと彼女が残した「心覚えの記」を中心に書かれている。資料を徹底して読み込み、当時の普通の人々の日常とその意識を作品に昇華させた作者の力量は相当なものだ。名手北村薫の一連の作品に通じるものがある。我々は単純に戦争が始まればおだやかな暮らしなどあり得ない、と思っているが、そうではないことがこの物語を読めばよく分かる。特に、奥様とタキを中心にした一家の暮らしぶりを知れば、誰もが納得してしまうだろう。とはいえ、グラデーションのようにいつの間にか、追いつめられた「銃後の暮らし」がやってくる。明から暗へ、静かな変化の描写もまた見事だ。
そして、最終章。語り手はタキから違う人物へと変わる。そこで明らかになる様々なことがら。この最終章の意味は大きい。これがタキの語りで最後まで続いたならば高い評価は受けても直木賞は取れなかっただろう。この一章で語られる3人の人物のその後、さらには、ある「想定」が、物語に奥行きを生み出し、見事なラストへとつながっていく。中島京子、技あり!の一冊だ。
◯「小さいおうち」は2012年12月、文春文庫で文庫化されました
2010.9.20 さてさて3連休も終りですね。あ、木曜日、また休みか。5月から続いた朝日新聞のアンケート、今日やっと最終回が終ってホッと一息。けっこう大変だった。
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