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【書評】山田太一「空也上人がいた」-人生の途中で重荷を背負った人、彼らに必要なものは?

 150ページぐらいの短い小説だ。一度このブログでも書いたが、脚本家である山田太一の小説は風変わりな設定が多い。だからこそ、読む側はグググッと前のめりになる。しかも、そこに鋭いアッパーカットが!効くのである。さて、今回の小説、作者は裏表紙でこんなことを書いている。「もう願い事もいくらも果せない齢になり、あと一つだけ小説を書いておきたかった。二十代の青年が語る七十代にならなければ書けなかった物語である」。山田太一76歳、そうか、実際にはどうなるかわからないが、これが最後の小説か。

 

 さて、「空也上人がいた」である。タイトルだけ見ると時代小説とさえ思えるがそうではない。空也上人は確かに出て来る。重要な役割だが、出番はそれほど多くない。特養老人ホームのヘルパーだった27歳の草介はある事故がきっかけでホームをやめる。心配した女性ケアマネージャー重光が新しい仕事を持って来る。吉崎という82歳の男性の在宅介護だ。

 

 山田太一らしい予想外の展開がここから始まる。吉崎は草介に京都に行けと言う。六波羅蜜寺に行って、木彫りの空也上人を見て来いと言う。ほら、口から小さな仏像を出しているあの空也上人の立像だ。吉崎の意図は?それを見た草介の反応は?

 

 人生の途中でなんらかの重荷を背負ってしまった人間がいる。この物語に登場する3人は軽重の差はあるがそういう人々だ。彼らに必要なものはいったい何なのか?その答えがここにはあるような気がする。46歳の重光さんを真ん中にこの3人の間には「恋のようなもの」も垣間見える。その恋の行方は?交錯する思いの果てにたどりつくのは?ラストが圧倒的。これは山田太一がたどり着いたある境地だ。少し驚きながらも、それを受け入れている自分がいる。さて、あなたはどうだ?

 

◎「空也上人がいた」は2014年4月、朝日文庫で文庫化されました。

2011.5.22 読書は「いねむり先生」を終えて、佐藤泰志「きみの鳥はうたえる」に。昨日今日となんだか夏のような陽気。

 

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