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【書評】角田光代「空の拳」-観客たちの興奮、会場の熱気、ボクシング描写がなんとも素晴らしい

 作者の角田光代は輪島功一のボクシングジムに10年も通っているそうだ。そんな彼女のボクシング小説、期待が高まる。まず何といってもいいのが試合のシーンだ。「Number」などのルポや沢木耕太郎の本も読んでいるが、これはもう実際にやっている人間にしか書けないであろう的確な描写で本当に素晴らしい。それは、後半になって登場人物のランクが上がって来るほどに熱を帯びてくる。観客たちの興奮、会場の熱気までもが伝わって来て、こちらもまた熱くなる。こんなボクシング描写だけでもこの小説には一読の価値がある。

 

 主人公がボクサーでないのもまたいい。那波田空也は出版社勤務の若者、文芸編集部志望だが、なぜか「ザ・拳」というボクシング雑誌の編集部に異動になる。小説の舞台になる「鉄槌ボクシングジム」に空也が初めて行った時、彼は「くさい。まず思った。くさくてうるさい。なんか嫌」、ここからすべてが動き出す。悲惨な生い立ちだが将来有望といわれている立花、さわやか青年で空也の同期(なぜか空也はジムに入門する)である坂本、その友人で6回戦ボーイの中神などを中心に物語は進んでいく。そこにはいつも「強いってどんなことなのだろう」という空也自身のボクシングへの問いかけがある。日本ランカーからさらに上をめざす者、未来への期待を抱かせる者、しだいにボクシングから遠ざかっていく者、そしてそんな彼らを取材する空也。各々のボクサー人生と青春が角田光代らしいてらいのない表現で描かれていく。これはスポーツ小説であり、青春小説であり、人間小説でもある。ラスト、その世界からだんだんと遠ざかり始めた空也が街頭のテレビであるボクシングの試合を見る、このラストが本当にうまい。

 

◯その他の角田光代の本の書評はこちら

 

◎「空の拳」は2015年10月、文春文庫から上下2巻で文庫になりました。

2013.1.4 あけましておめでとうございます!今年もこの本のブログをどうぞよろしく。情報量をもう少し多くできれば、と思っています。新年の読書は村上龍「55歳のハローライフ」。ううむ。

 

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