「バニシングポイント」(97年単行本、2000年文庫で発売)を改題し、新装版として小学館文庫から刊行されたもの。正午ファンなのになぜか読んでなかったので早速手に取った。
これは7つの物語からなる連作小説だ。最初の話の冒頭は「今年四十歳になるタクシー運転手、武上英夫は秘密を三つ持っている」というフレーズで始まり、7編目のラストは「今年四十一歳になるタクシー運転手である武上英夫は、気をまぎらわせるために繰り返しそんなことを考えていた」で終わる。この武上というドライバーは何編かに登場する。「連作小説」というのは各々が全く無関係な話ではない、ということだが、この「事の次第」における登場人物の重なり具合はかなり微妙で、話が巧みに交錯している。その交錯加減(?)が尋常ではなく、さすが佐藤正午なのだ。
語られるのは夫婦や恋人、不倫関係など男と女の物語。今いる場所ではないどこかに、ちょっとしたことで踏み越しそうになってしまう彼らのことを佐藤はいつものクールな文体で描いていく。できればこれ、通勤電車で少しずつというような読み方ではなく、休日に一気読みした方がいい。話が分断されると大切なことを読み落としてしまう可能性がありそうだ。
特にいいのは最後の2編。作者の描写力が冴え渡り、非常に濃密な時間がこの中にある。読書の幸せを感じさせてくれる一冊だ。
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2011.12.7 さてさてさて、母親の入院、さらには転院でなんだか忙しい。その「先」のこともいろいろと考えないといけないし。代官山の蔦屋書店、行けるのは来年になってからかなぁ。
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