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【書評】ジョナサン・サフラン・フォア「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」-9.11で父を亡くした少年は希望を見いだせるのか

 映画にもなったので、この本のことを知っている人も多いだろう。主人公の少年が9.11同時多発テロで父を亡くした設定であることも周知の事実かもしれない。僕もそのことは知っていたのだけど、最初はかなりとまどった。この小説の構成がちょっと分かりにくかったからだ。

 

 読んでいくうちにこの物語が、主人公であるオスカー少年の1本のカギをめぐる冒険と彼のおじいちゃんから息子(オスカーの父)への手紙、おばあちゃんからオスカーへの手紙で構成されていることが分かってくる。作者はこの物語を9.11にとどめることなく、第二次世界大戦のドレスデン爆撃や広島の原爆投下なども交えながら話を進めていく。おじいちゃんおばあちゃんはドレスデン出身でこの街で出会った。手紙で語られるのは、波瀾万丈とも言える2人の物語だ。

 

 そして、父が遺したカギと「ブラック」という言葉だけをヒントにニューヨーク中を歩き回るオスカー。おじいちゃんおばあちゃんと彼に共通するのは愛する人を失った喪失感、その悲しみの深さ。それでも何とか元のような普通の日々に戻りたいと願う強い思いだ。

 

 作者は、その表現としてヴィジアル・ライティングの手法を採り入れている。ページの間に多くの写真や絵が挿入されたり、字の級数や文字の詰め、行間などを変えたり、そこには様々な工夫がある。そして、それは、テーマを表現するひとつの方法として完全に物語に溶け込んでいる。特にラストのヴィジュアルには心を打たれた。

 

 ヘンに大人びたところがあるオスカー少年だが、彼が亡き父との接点を求めて、懸命になればなるほど痛々しい感じがする。それでも作者はなんとか希望を見いだそうとする彼に寄り添うようにこの物語を書き続けている。長編2作目という作者ジョナサン・サフラン・フォア。この俊英がこれからどんな小説を書いていくのか大いに楽しみにしたい。

 

2012.5.25 どうやら今回で200冊の本を紹介したことになったようです。ううむ。読書は小林信彦の「非常事態の中の愉しみ」。

 

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