吉田修一は「悪人」と「さよなら渓谷」しか読んだことがない。どちらもリアルな「愛」の物語だ。だからこの小説にはぶっ飛んだ。そうか、吉田修一ってこういう小説も書くのだな。それにしても、これはスゴい物語である。
春、夏、秋、冬の4部構成。春夏秋はそれぞれ主人公が違う。ビール会社に勤める明良、彼の家には謎の贈り物が届く。都議会議員の妻篤子、彼女は夫が議会でヘンなヤジを飛ばしたのではないかと疑っている。テレビ局のディレクター謙一郎は婚約者の行動に不審を抱く。2014年に生きる3人。ワールドカップ、都議会のヤジ事件、香港の雨傘革命などリアルなニュースを取り込みながら物語は冬の部へとなだれこむ。
冬の部はなんと70年後の未来。響という青年、凛という女性、「サイン」と呼ばれる彼らの正体は…?混乱しながら読む進むと、前3部の孫にあたる人間などが出て来て少しずつ物語の全容と作者の思いが見えてくる。
今、現在、起こっている社会的な出来事、一人ひとりの日常に起こる些細な出来事やそこでの選択、そのひとつひとつが明日につながっていて「未来」を形作っていく。当たり前のようだけれどそれを自覚している人間は少ない。作者はその「つながり」を彼なりの方法で描いている。70年後の未来を生きる響と凛、70年前から未来にやってきたある男、彼らの人生が交錯する最終章に強く心を打たれる。
◯この本は2019年2月、文春文庫で文庫化されました。
◯吉田修一の他の本のレビュー等はこちら
2016.5.18 若冲展、今日はシルバー無料デイで11時ぐらいに320分待ち、現在でも170分待ち。やれやれ。会期末も近くこれからどうなるのだろう?読書は原田マハ「暗幕のゲルニカ」。
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