これは今年のベストかもしれない。「停電の夜に」「見知らぬ場所」「その名にちなんで」、どれもが素晴らしいジュンパ・ラヒリの最新長編。その帯には「殺された弟。その妻とともに生きようとした兄。」とある。
年子としてカルカッタで生まれたスバシュとウダヤン、仲の良い兄弟として育ったが、ウダヤンはインドの革命運動に参加し、身重の妻ガウリの目前で射殺される。留学先のアメリカから戻ったスバシュは実家にいる弟の妻を両親から守るため、彼女と結婚しアメリカに連れ帰ることを決意する。なかなかすごい話だが、物語の重点は実はこの後にある。
一人の男の死によって、彼らの人生は一変する。どちらもウダヤンの死に心を残していて、吹っ切れることがない。特にガウリは、夫の死をずっとずっと引きずったままだ。彼女は、元々哲学に興味があり、最終的にはカリフォルニアの大学で教えることになるのだが、そこには夫であるスバシュも娘ベラの姿もない。その残酷な決断が哀しい。
そうするしかない、そうすることでしか生きられない。
結局、ウダヤンの死は娘ベラの人生さえも変えてしまうことになる。ある死、ある事がきっかけでその後が変わる。そのことにからめとられてうまく生きることが出来ない。それはけっしてこの物語の家族だけのことではないだろう。それが人生だ、ということも言えるのかもしれない。そういう意味では、まさに「人生」を描いて見事な一編!晩年のスバシュとガウリ、最後に少しだけさす薄明かりが救いだ。
短いセンテンスを積み重ねていくラヒリの文章がとてもいい。時の経過をフラッシュバックのように描いていて素晴らしかった。
◯ジュンパ・ラヒリの他の小説の書評はこちら
2014.12.1 昨日、若いコピーライターの友人と会う。親が僕より若いことを知りア然。読書は窪美澄「水やりはいつも深夜だけど」。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。