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【書評】ジュンパ・ラヒリ「べつの言葉で」-彼女はなぜ今までの言葉を捨てなければならなかったのか?

 このエッセイ、すこぶるおもしろい。「その名にちなんで」「見知らぬ場所で」などの世界的作家ジュンパ・ラヒリは、ベンガル人の両親を持ち、アメリカで育った。ベンガル語は話せる程度、英語はパーフェクトに話せて、小説も英語で書いているのだが、この2つの言葉は「仲が悪い」と彼女自身は感じていた。そんなラヒリが2012年にイタリアに移住する。住むだけではない。彼女はイタリア語で物語を書くことを決心したのだ。

 

 周囲は当然、反対する。しかし、彼女にとってこれは「人生における英語とベンガル語の長い対立から逃れること」なのだ。ううううむ、なんだかスゴい…。このエッセイは移住までの顛末とイタリアに暮らし始めてからの諸々がイタリア語で書かれている。もちろん、言葉の問題を中心に。

 

 印象的なエピソードがある。イタリアで開かれる文芸フェスティヴァルにイタリア語で小文を寄せた彼女が、その英訳をも自ら書くことになる。しかし、それがうまくいかない。彼女は「自分の英語の豊かさ、強さ、しなやかさに圧倒される」のだが、同時に「生まれたばかりの赤ん坊のように抱きかかえているわたしのイタリア語を守りたい」とも思うのだ。

 

 これまでの彼女の小説は自らのアイデンティティーを探すために書かれたものだった。イタリア語で書くことで、もうそういうテーマから開放されるのではないか。もっと魂の深淵に触れるような作品が生まれるような予感がする。収録された2編の掌編にはすでにその萌芽がある。ジュンパ・ラヒリの次の小説がとてもとても楽しみだ。

 

◯ジュンパ・ラヒリの小説の書評はこちら

   

2016.4.25 トカラ付近で小さな地震が続いてるのが気になる。北海道の補選、善戦したけれど…。読書は宮下奈都「羊と鋼の森」。

 

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