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【書評】大崎善生「聖の青春」-ここには村山聖という稀代の棋士の生と死が丸ごと描かれている

 このノンフィクションの中盤にこんな一文がある。

 

純粋さの塊のような生きかたとありあまる将棋への情熱。それにかける集中力と桁外れの努力。勝利へのあくなき執着心と、体を貫く灼熱の棒のような名人への渇望。生きることに対する真摯な姿勢。知らず知らずのうちに村山の純粋な魂に揺すぶられている自分に森は気づいていた。

 

 将棋の師匠である森の思いを通して語られる主人公・村山聖、29歳で夭逝した彼のすべてが上の文章に集約されている。昨年、同名の映画を観たが、映画では同世代のライバルだった羽生善治との対決に大きな比重が置かれていた。それはそれで大変おもしろかったのだけど、原作はさらに中身が濃く、村山聖という稀代の棋士の生と死が丸ごと描かれていた。

 

 5歳の頃から腎ネフローゼという難病を患い、幾度となく入退院を繰り返しながら、棋士になり、悲願である名人を一直線でめざす、ひとつの青春。そこには家族との絆の物語があり、少し風変わりな師弟の物語があり、同じ道を行く棋士たちとの切磋琢磨の物語がある。その中で少しも揺らぐことのない聖の魂に心を強く揺さぶられた。周りの棋士仲間たちがそうだったように、僕もこの村山聖という青年が大好きだなぁ。

 

 さらに彼の別の一面。カート・ヴォネガットが好きだったり、萩尾望都や大島弓子など少女漫画が大好きで部屋はマンガ本で埋め尽くされていたり。将棋への思いも、順位戦の厳しさを体験したあとは淘汰の世界に嫌気がさして「早く将棋をやめたい」と口走っていたという。将棋一筋のように思われる彼のこんな面をもキチンと拾い上げることができたのは、著者自身が当時、業界雑誌の記者だったこともあるのだが、聖とはそれを超越した魂の交流があったのだ。

 

 いずれにしても村山聖という男を多面的に描いて「聖の青春」は忘れることのできない一冊になった。大崎善生はこのデビュー作で新潮学芸賞を受賞している。

 

 2017.8.23 あれっ、今日は猛暑日で雨はふらないと思ったのに…少しだけ雨。読書は燃え殻「ボクたちはみんな大人になれなかった」がもうすぐ終わりそう。

 

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