グレタ・ニンプ、なんだかグレタ・ガルボみたいだな。こ、この表紙は一体なんだ?そんなことを思いながら最初のページをめくる。冒頭からなんだか異常なテンション!夕方、夫の俊貴が家に帰りドアを開けると、妻の由依が八つ墓村のようなゾンビのような格好で部屋に立ち尽くしている。で、腹の底からのデカい声で叫ぶのだ。「ヨウセイダーーーーーーーッッッ!」、これ活字もデカくなってるから怖い。この小説では至る所に文字の書体や大きさを変える試みをしていて、表現の幅をグイッと広げている。
で、ヨウセイ?妖精?違う!陽性のことだった。長年の不妊治療に終止符を打ち子供を諦めた由依と俊貴。子作りという呪縛から解放された途端に由依が妊娠しちゃったのだ。それだけならめでたい話なのだが、彼女の様子が明らかにおかしい。ドラゴンボールの孫悟空みたいな口調で話し、雄叫びをあげ、翌日にはデニス・ロッドマンみたいな4ミリの坊主頭になってしまった。しかも色はパープル!優しい妻が豹変してファンキーになっちゃったのだ。読者はこの妻の豹変はどうして?何が起こったの?という思いでページをいつもより早めにめくっていく。途中でマタニティハイなんて言葉も出てくるし、「新しいニューワタイに羽化」なんて表現もある。
奇妙な言動、奇天烈な格好、帯には「妊婦コメディ」という表記もあるのだがところどころで由依が発する言葉が心に迫る。「いくら金なくても、国のために子どもなんか産むか、ボッケエエエエエ!」「少子化って一体誰の責任よ?少なくとも今の私らの責任じゃないだろ」「ニンシンってゆう、目的達成ばかりに気を取られ過ぎて私は自分の人生を生き忘れてた」。僕みたいなおじさんじゃなく当事者や経験者にはもっと切実に響く言葉たちだ。そして、豹変した妻を受け入れられなかった夫の意識もいつの間にか変わっていく。
全体的にみたらお笑い満載のぶっ飛びコメディだけれど、さすが綿矢りさ。それだけでは終わらない底力がある。妊娠から、さらに出産、育児へと物語は進んでいく。さて、その着地点は? ◆DATA 綿矢りさ「グレタ・ニンプ」(小学館)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)