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【歌舞伎/書評】波野好江「中村勘三郎 最期の131日」-妻としての執念を感じる驚きの一冊

 いやぁ、これには驚いた。タイトルからして妻であった著者が勘三郎の死までの日々を「情緒的」に語った本だと思っていた。ところがこれ全然違うのである。回想場面ではもちろんそういう部分もあるけれど、病気に関しての様々な記述は本当にシビア。これサブタイトルが「哲明さんと生きて」となっているが「中村勘三郎はなぜ死んだのか」にしてもおかしくはないぐらいの内容だ。

 

 最初のうつ病(と診断された病気)のところから、著者は非常にこまやかに当時の状況を語っていく。この本は大竹しのぶに勧められて書いたらしいのだが、最終的にプロの手は入っているのかもしれないが、ほとんどは彼女が書いたものだろう。そうでなければ、ここまでのことを書くことはできない。ある意味、妻としての執念を強く感じた。

 

 勘三郎は食道がんになり、その後、肺炎を併発し、ARDS(急性呼吸逼迫症候群)という呼吸不全を起こし、最終的に死に至るのだけれど、そのプロセスも本当にこまかく書かれている。担当医から受けた病状の説明もそのたびごとに掲載されているのには驚いた。

 

 しかし、これを読むと、どこかで何かが掛け違っているというか…。病院側の判断ももちろんあるのだけれど、勘三郎という人の人間性、人のよさ、他人に対するやさしさが死を早めてしまったのではないか、というような気もする。う〜ん。回想的に語られる2人の出会いからの話にはホッとするし、すさまじい夫婦げんかや中村屋のガールフレンドとのエピソードには思わず吹き出したりもした。巻末には主治医2人のインタビューまで掲載されていて最後の最後まで驚かされる一冊だ。

 

 2014.2.24 というわけでオリンピックも終わりましたね。テロがなくてよかった、よかった。読書は尾崎英子「小さいおじさん」。

 

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