勘三郎が死んでもう1年以上が過ぎた。僕はまだ彼の死を受け入れられないでいる。この気持ちは贔屓であった人間ならば誰しもだろう。先代から付き合いがあり、若き勘三郎を描いた「役者の青春−中村屋三代」からずっと彼を追いかけてきた筆者・関容子も当然同じで、もちろん僕らよりもはるかにその思いは強いはずである。
「勘三郎伝説」は若い頃からの中村屋のエピソードを十一章に分けて描いているのだが、そういう話の最後にはいつも勘三郎の死を惜しみ、信じることが出来ず、途方に暮れている筆者の姿がある。第一章は「初恋の人に銀の薔薇を」というタイトルで太地喜和子との熱く激しい恋のことが語られている。その物語の端々に人間・波野哲明の姿が垣間見えてくる。歌舞伎への愛もまたしっかりと伝わってくる。それはすべてのエピソードに通じることだ。仁左衛門との話もいい、海老蔵との話もいい、井上ひさしとの話、宮沢りえとの話もいい。みんないい。
長年取材を続け、公私ともに親しかった関容子だからこそ書けたこの一冊。歌舞伎ファンはもちろんのこと、勘三郎を全く知らない人にもぜひ読んでもらいたい。こんな男がいたのか、と必ずや感嘆することだろう。
◯関容子のその他の本のレビューはこちら
◎「勘三郎伝説」は2015年10月、文春文庫から文庫になりました。
2014.1.20 うむうむ、寒い。あんまり寒いと体に悪いぞ。いやいやホント。読書は角田光代「私のなかの彼女」が終わり沢木耕太郎「流星ひとつ」。
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