いわゆる《私》シリーズ(円紫さんシリーズともいう)の最新作。実に17年ぶりの新作だ。一作目で大学生だった《私》はすでに結婚し、小さな出版社の編集者になっている。なんと中学生の息子までいる。これだけで今昔の感がある。このシリーズ今までは東京創元社から出ていたのだが、今回からは新潮社。《私》が新潮社に向かうところから物語が始まるのがいかにも北村薫らしい。
3つの物語が収められていて、各々がゆるやかにつながっている。読み始めるとこのシリーズ独特の語り口を思い出してとても懐かしい。最初の「花火」は芥川龍之介の「舞踏会」とその元になったピエール・ロチの本の話。これはちょっと知が勝ちすぎている感じがした。特に後半は論評みたいになってるのがなじめない。次の「女生徒」はいうまでもなく太宰の小説がテーマ。懐かしい友人の正ちゃんは国語の先生になって登場する。小説に出てくる「ロココ料理」の話から「女生徒」の題材となった「有明淑の日記」への考察。その対比から太宰論へと進み一気におもしろくなってくる。
そして、表題作。3作の中ではなんといってもこれが一番だ。ここでようやく落語家の円紫さんが登場。前の2つの話を報告するというカタチで物語が進み、有名な「生れて、すみません」のこと、太宰が使っていた辞書の話へと広がっていく。このあたりの巧みなこと。少しミステリーがかった展開と知的好奇心をくすぐる内容。これこそこのシリーズの真骨頂だ。読み進めるうちに《私》シリーズのおもしろさを再確認できた。やっぱりいいよなぁ、これ。未読の人は「空飛ぶ馬」からぜひどうぞ!
◯この本は2017年10月、創元推理文庫で文庫化されました。
空飛ぶ馬 北村 薫 |
夜の蝉 北村 薫 |
秋の花 北村 薫 |
2015.5.31 やっぱり日本は火山列島で地震列島だ。これから本当になにが起こるかわからない。そんな国に原発なんているのか。読書は澤田瞳子「若冲」。
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