また、本の話をしてる

おすすめ本の紹介や書評、新刊案内など、本関連の最新ニュースを中心にお届けします。

【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.11/3週)

 さてさて今週は1「本」勝負!出る本、今年の文藝賞を受賞した若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」(11/17)出ます。河出書房主催の文藝賞は、綿矢りさなど若手の受賞が多い感じだったのですが、若竹さんは63歳の主婦で歴代最年長。もうこれだけで興味津々!タイトルにも心惹かれます。アマゾンの紹介を引用してみますね。

 

74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
おらの今は、こわいものなし。

結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した桃子さん。
身ひとつで上野駅に降り立ってから50年――住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。
「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。
捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。震えるような悲しみの果てに、桃子さんが辿り着いたものとは――

青春小説の対極、玄冬小説の誕生!
*玄冬小説とは……歳をとるのも悪くない、と思えるような小説のこと。
新たな老いの境地を描いた感動作。第54回文藝賞受賞作。
主婦から小説家へーー63歳、史上最年長受賞。

 

 青春小説の対極の玄冬小説、っていうのがいいですね。語りは東北弁、地の文は標準語にしてリズム感を生み出してるようです。選考委員他の評判もなんだかいいですよ。

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【映像化】谷崎潤一郎「細雪」をNHK・BSでドラマ化。来年1月から「平成細雪」

 この新潮文庫版は懐かしいなぁ。上中下3巻で今も発売されています。ドラマが始まる頃には帯付きで新しいのが出るのかな?このニュース、初めて見た時は平成の「細雪」と一部で紹介された綿矢りさの「手のひらの京」のドラマ化かな?と期待したのですが違いました。谷崎の名作を平成を舞台に「バブル崩壊後を生きる女性たちの物語 」としてよみがえさせるようです。放送は1月7日・日曜午後10時からBSプレミアムで。全4回です。

 

 四姉妹は長女・鶴子を中山美穂、次女・幸子を高岡早紀、三女・雪子を伊藤歩、四女・妙子を中村ゆりが演じます、脚本は岸田國士戯曲賞受賞の蓬莱竜太、演出は映画「東京タワー」などの源孝志。

 

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【書評】宮部みゆき「この世の春」-凍え死にそうな冬の季節を生き延びたひとつの魂の物語

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 最初から緊張感のある場面が続き、読み進めていくうちに状況がわかってくる。そして、この物語の核となる部分が明らかになる。いやぁ、驚いた。江戸時代を舞台にこういうテーマで小説を書くのか?これを思いついた時、さすがに宮部さんも「おぉぉ」と思ったことだろう。しかし、アイデアを思いつくだけなら誰でもできる。大切なのはこのテーマをどのような物語に仕上げるか。そこで宮部みゆきが考えたのは。

 

 宝永七年(1710年)下野北見藩で起こった政変から物語は始まる。若き藩主であった六代目の北見重興が心の病のためにその座を奪われる。それも「押込(おしこめ)」という形で。押込とは家を守るために問題のある主君を強制的に監禁することだ。いったい重興に何が起こったのか?心の病とは何だ?

 

 そんな騒動に主人公の多紀も巻き込まれていく。彼女は訳あって前藩主が幽閉された「五香苑」で重興に仕えることになるのだ。多紀はここで身近に接することになった、重興の「今」を知り驚愕する。それは、共に仕えることになった元江戸家老の石野織部、医者の白田登も同じだ。これはいったい何なのか?重興はなぜこんなことになってしまったのか?何が原因で起こったことなのか?しだいしだいに物語は核心に迫っていく。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.11/2週)

 さて、出た本。角田光代が雑誌「オレンジページ」に長期連載しているエッセイの第三弾、「月夜の散歩」出ました。既刊の「よなかの散歩」「まひるの散歩」はすでに文庫化されています。角田エッセイの楽しさを知りたいならばこれはおすすめ!

 

 もう1冊というか上下2冊ですが、宮部みゆきの名作「蒲生邸殺人事件」が文春文庫から新装版で新しく発売になりました。日本SF大賞受賞作です。時間旅行者である主人公が今まさに2.26事件が起ころうとしている昭和11年の東京にタイムトリップするという物語。かなり前の作品なので書評を紹介できないのが残念ですが、個人的には宮部作品のトップ5に入る小説だと思っています。未読の人はこの機会にぜひ!!

 

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【絵本】くどうなおこ×松本大洋『「いる」じゃん』-言葉と絵、母と子のコラボ、生きる元気が湧いてくる!

 くどうなおこは詩人だ。81歳になる。そうか、童話作家でもあるのだな。そちらのことはあまり知らない。松本大洋は漫画家でイラストレーターだ。知ってる人も多いだろう。で、この2人、親子である。裏の方の帯にくどうさんの言葉が書かれている。

 

「うれしいなあ。松本大洋との合作って」

 

そうだよなぁ、しかも、こんなに素敵な一冊!帯、表は谷川俊太郎さんと糸井重里さんの言葉

 

スイートな言葉にホットな絵、こんな絵本初めて!ー谷川俊太郎

 

赤んぼうでも、おとなでも好きになる。

ささやくことばと、なでるような絵。ー糸井重里

 

 よさそう。でも、う〜ん、このタイトルには抵抗があった。じゃん、は好きじゃない。それを詩人のくどうさんが…。しかし、しかし、この言葉、絵本の最後の一行なのだけれど、この一行で物語が見事に着地するのだ。すごい。

 

 この絵本の文章はまさに詩だ。言葉だけ読んでも十分にいい。そして、生きる元気がムクムクムクと湧いてくる。あ〜だいじょうぶなんだ、と、あ〜みんなもなんとか生きてるんだ、と。そして、松本大洋の絵!谷川俊太郎との「かないくん」もとてもよかったけれど、これもまたいい。モノクロームに淡く着色された感じがなんとも素敵だ。くどうさんの詩を増幅させて、読む者の心を遥か彼方まで飛ばしてくれる。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.10/5-11/1週)

 さて、出た本。小林聡美「ていだん」、出てました。小林さんはキャラクターも魅力だし、話もおもしろいですよね。前にはいろいろな人たちと散歩しながらの話をまとめた「散歩」という本も出しています。今回は鼎談ですから、ゲストの方2人と語り合ったものをまとめたもの。ゲストの36人がなかなかすごいんです。

 

【ゲスト】 井上陽水、川上未映子/小泉武夫、飯島奈美/もたいまさこ、片桐はいり/松岡享子、群ようこ/柳家小三治、酒井順子/長塚圭史、西加奈子/加瀬亮、前田敦子/南伸坊、江戸家小猫/大橋歩、小野塚秋良/宇多喜代子、森下圭子/市川実和子、市川実日子/坂崎千春、坂本美雨/大貫妙子、畠山晶/板谷由夏、平岩紙/白旗眞生、野村友里/役所広司、光石研/甲斐信枝、本上まなみ/石田ゆり子、中谷百里

 

気になる人はぜひぜひ。

 

 さて、出た本をもう一冊。鈴木るりか「さよなら、田中さん」。彼女はなんと14歳の中学生!小学館主催の「12歳の文学賞」で史上初3年連続大賞を受賞したというなんだかすごい人です。あさのあつこ、石田衣良、西原理恵子が大絶賛で発売直後に重版決定、しちゃったらしい。ううむ。特設サイトがあって、全5編のうちの1編が全文読めるのでちょっと見てみてください。いやいや、これは。

 


 

 出る本。大好きな松家仁之の新作「光の犬」(10/31)が出ます。北の町に住む一族三代と北海道犬の話。百年以上の長い時間を描いていた物語のようですが、犬がどのような役割を果すのか気になるところ。あぁ、表紙もいいなぁ。読もう!

 

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【絵本】ミロコマチコ「ねこまみれ帳」-あ〜この猫まみれ感がたまらない!猫好きもそうでない人もぜひっ!!!

 まみれてる!まみれてる!しっかり猫にまみれてる!これは、小さな頃からいつも猫がそばにいた絵本作家ミロコマチコが、猫たちとの様々なエピソードをイラストと文章で描き綴ったねこまみれエッセイ集だ。

 

 最初の方は、彼女が初めて飼った白くてふわふわの大きなオス猫、鉄三(てつぞう)とのエピソードがまとめられている。これはカレンダーにもなっていて、それがきっかけで「てつぞうはね」という彼女の絵本は生まれたらしい。鉄三は、病院で手術を受けた時には手足をガムテープでぐるぐる巻きにされたほどのあばれ猫。いつも白い毛に絵具の色がついていてミロコさんの「作品の一部」になっていたらしい。

 

 そんな鉄三が亡くなって、その後、少し経ってからやってきたのが外房線の近くて拾われた兄弟猫のソトとボウ。3分の2は彼らの話。後半には「ソトボウの大脱走」と「うちの子になるかい?大作戦」というマンガ仕立てのエピソードがあるのだけれど、何だかこれを読んでいると大島弓子さんの「グーグーだって猫である」やその続編「キャットニップ」シリーズを思い出してしまう。あまりに猫愛が強くて、それが本の中に収まりきれずに大きくはみ出してしまってる、その感じがよく似ているのだ。猫好きの思いは変わらない。

 

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