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【書評】奥泉光「シューマンの指」-衝撃のラスト!しかしこれは成功なのか?

 最初に一通の手紙とひとつの噂と共に、ある謎が読者に提示される。高校時代に指を失った早熟の天才ピアニストが海外でコンサートを開いていたというのだ。彼の名は永嶺修人。わずか12歳で国際コンクールで優勝し将来を嘱望された若者だ。この物語は、高校時代に彼と知り合い、友人となった里橋優の手記という形で書かれている。

 

 前半は音楽論、シューマン論、シューマンの楽曲の解釈などを織り交ぜながら、里崎自身の音楽との関わり、永瀬との交流などが描かれる。クラシックファンとは言えない僕にとって前半はけっして読みやすくはないのだが、その抑制された語り口は悪くなく、読む進めることができた。もちろんそれは「提示された謎」の解決への期待があればこそである。

 

 ところが、後半、ひとつの殺人事件が起こるのだが、そこから前半のトーンは消え失せ、非常に下世話?な物語になってしまう。さらに、犯人探し、不幸な事故へと物語は続いていくのだが、最初の謎はそのままだ。そして、最後の最後に訪れる大ドンデン返し。あぁ、そういうことなのか…。そういう目でみればいろいろな記述は納得できる。しかし…。

 

 テーブルクロス引き、というのがあるが、このラストをそれに例えるなら「テーブルクロスは見事に引き抜かれたけど、その前にグラスやビンはすでに倒れてしまっている」のだ。このラストを読んでも、何というか興ざめな感じがするばかりだ。作者がこの本を通じてやりたかったのはシューマン論なのか、それともラストへ向けての驚くべき物語なのか。前者のことはよくわからないが、後者はどう考えても成功したとはいいがたい。

             

○奥泉光「シューマンの指」は、2012年10月中公文庫で文庫化されました

2011.4.11 あれから、1カ月。そんな時にこんなに余震が続かなくてもいいじゃないか。本当に腹が立つ。現地の皆さんは、もっと絶望的な気分になってるのでは…。もう本当にいいかげんにしてくださいよ。

 

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