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【書評】柴崎友香「寝ても覚めても」-そっくりな男に恋をする。「見ること」への強いこだわりを感じる物語

 この小説には驚いた。と同時にこれを初めて読む柴崎作品に選んだことを少しだけ後悔した。このスタイルがこれまでもそうだったのか、それともこの作品独自のものなのかが良くわからないからだ。こんな感じでずっと書いてきた作家なのだろうか?昨年、かなり話題になっていたのであまり考えずに買ったのだけど…。

 

 まずスゴいのは風景描写の緻密さだ。柴崎友香はありとあらゆる手を使って(というのもヘンな言い方だが)描きたい風景を言葉にしようとしている。それは見事に成功していてリアルな風景が目の前にクッキリと浮かびあがってくる。文章と文章の間に挿入される短い一文も効果的だ。それは、まるでシャッターを押すように風景を切り取っていく。主人公が写真好きという設定もうまい!柴崎友香は視線の作家なのだろうか。

 

 この物語の舞台、最初は大阪だ。こういう緻密な描写と大阪弁の会話が同居してるのがなんともおかしい。両者のトーンがあきらかに違うのだ。「う~ん、変わってる」と読み進めているうちに思った。

 

 さて、物語だが、これは朝子という女性の22歳から31歳までの「10年の恋」の話だ。彼女は大阪で麦という男に恋をする。しかし、彼が失踪し関係は途切れる。その後、東京に出てきた朝子は麦とそっくりな亮介という青年と出会い、また恋に落ちる。大阪の麦と東京の亮介。見た目がそっくりというのもまた、ヴィジュアルの話である。柴崎はこういうこだわりの中で物語を紡いでゆく。亮介との出会いから話は深度を増し、不思議さも増してくる。物語の終盤近くでの花見のシーンがなんとも印象的。ここは本当にいいなぁ。そして、ラストに向かって意外な展開が僕らを待ち受けている。

 

◯この本は2014年5月、河出文庫で文庫化されました

◯さらに映画化にあわせて2018年6月、書き下ろし短編収録の増補新版が出ました

2011.10.1 ありゃ~10月になっちゃった。読書は「yom yom」の窪美澄作品を読んでから、小林信彦「流される」へ。

 

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