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【書評】木皿泉「昨夜のカレー、明日のパン」-ここには常に生と死があり、生きることへの問いかけがある

 「すいか」「Q10」などの夫婦脚本家木皿泉の初めての小説は8編からなる連作小説集だ。その家にはテツコという女性と彼女のギフ(義父)が一緒に住んでいた。テツコの夫一樹は7年前に亡くなり、2人はそれぞれ喪失の思いを抱えたまま生きている。一樹の幼馴染で隣家に住むムムム、テツコとの結婚を望む岩井、一樹のいとこの虎尾など、まわりにいる人々との交流の中で2人は少しずつ自分を取り戻していく。

 

 「昨夜のカレー、明日のパン」には常に生と死があり、生きることへの問いかけがある。日々の「暮らし」が描かれ人生が描かれ、変わりながらも生きていく人々が描かれている。人の言葉の力、忘れてはいけないもの、年をとるということ…。

 

 木皿泉らしさは小説になっても変わらない。いろいろな意味で心にグッと来るのは、僕たち凡人が日常のいろいろな場面で「思ったり」「感じたり」「気づいたり」しながらも、言葉にはできずそのまま忘れちゃっている「大切なこと」を木皿泉はちゃんと言葉にしてくれていることだ。それは名言として届いたり、なにげないフレーズとして心にスッと入ってきたりする。もちろん、独特のユーモアやペーソスも忘れたりはしない。だから、テツコやギフだけでなく、読者である僕らもなんだか元気になって来るのだ。元気、というか、人生を肯定できちゃうのだ。

 

 個人的には、ギフの妻を描いた「夕子」と異様におかしい「男子会」が好き。ラストは死んだ夫のこと「一樹」。これを最後に持ってくるなんて…。この構成、そして、このタイトル!木皿泉ってやっぱりスゴい。

 

◯木皿泉のその他の本のレビューはこちら

 

 

◎「昨夜のカレー、明日のパン」は2016年1月、河出文庫から文庫になりました。

2013.5.15 なんだかやたらと暑いじゃないか。やれやれ。読書は村上春樹のあの長いタイトルのやつにやっとこ突入。

 

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