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【ノンフィクション/書評】沢木耕太郎「流星ひとつ」-若き藤圭子の魅力を見事に浮き彫りにした傑作

 これ、去年読んでいたらベスト5には入っていたと思う。1979年、引退を発表した藤圭子に著者がしたインタビューがこの「流星ひとつ」の元になっている。当時、刊行することに迷いを感じた沢木は、結局この物語を発表せず、特別に作った一冊だけを彼女に贈った。

 

 永遠に葬ったと思っていたその本が復活したのは、言うまでもなく藤圭子が自ら命を断ったからだ。娘である宇多田ヒカルのコメントを聞いた時、沢木は思った。藤圭子という女性の「水晶のように硬質で透明な精神を定着したものは、もしかしたら『流星ひとつ』しか残されていないかもしれない」と。

 

 以上の話は著者の「後記」によるものだ。本文は地の文はなく会話(インタビュー)だけで表現されている。しかし、これは雑誌などの「インタビュー記事」とはまるで違う。沢木耕太郎が構成に工夫を凝らし、インタビューする自らの言葉を操りながら作った、まさに野心作だ。そこがまず素晴らしい。そして、何より感動するのが、28歳の藤圭子が女性として本当に魅力的なことだ。真っ直ぐで純粋で可憐で大胆!あまりに真っ正直に様々なことが語られて戸惑う部分もあるのだが、それより何より、彼女の話に引き寄せられてしまう。

 

 宇多田ヒカルはこの本を読んだのだろうか? 幼い頃から病が進行していくだけの母を見てきた彼女が、母親にもこういうピュアな魂を持った時代があった、ということを知ることができたならば。それだけでも、この1冊が世に出た意味は大きいと僕は思う。

 

○沢木耕太郎「流星ひとつ」は2016年7月に新潮文庫で文庫化されました。

◯沢木耕太郎のその他の本のレビューはこちら

 

 

 

2014.2.3 フィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなったというニュースにショックを受ける。いい役者でした。読書は宮部みゆき「ペテロの葬列」。

 

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