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【エッセイ/書評】村上春樹「職業としての小説家」-村上春樹の[書くことの喜び]に触れることができる幸せ

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 いつになくマジメな村上春樹だ。いつもなら比喩などがもう少し入ってクスッと笑ってしまうところも多いのだけど、そういう箇所は少ない。これはやはり村上さんがぜひ書いておきたいことだったのだろうと思う。

 

 デビュー当時の話など下世話?な部分もあってそれはそれで楽しいのだけれど、この12回に分かれたエッセイの中で一番印象的なのは村上さんが「書くことの楽しさ」に言及しているところだ。特に6回目「時間を味方につけるー長編小説を書くこと」がおもしろい。彼は自ら書いた小説を「その時点における全力を尽くし」て何度も何度も数えきれないぐらい書き直し、ゲラになっても真っ黒になるぐらい書き直している。ここで引用されているカーヴァーの言葉「『時間があればもっと良いものが書けるはずなんだけどね』、ある友人の物書きがそう言うのを耳にして、私は本当に度肝を抜かれてしまった。(中略)もしその語られた物語が、力の及ぶ限りにおいて最良のものでないとしたら、どうして小説なんて書くのだろう?」、村上さんも又この思いを共有している。

 

 9回目「どんな人物を登場させようか?」で語られる人称の話も刺激的だ。新しい人称は新しいヴィーグルなのだ!そして「海辺のカフカ」を書いた時に感じたある感動的な体験の話。小説を書くことで彼は十五歳だった自分が感じた空気や光をそのまま自分の中に再現することができたという。「自分のずっと奥底に長いあいだ隠されていた感覚を、文章の力によってうまく引きずり出すことができたのです。それはなんというか、本当に素晴らしい体験でした」。

 

 村上春樹という小説家の「書くことの喜び」に触れることができるのは本当に幸せである。そして、それを実現してる根底には彼の自由な魂がある。いいなぁ、いいよなぁ小説家って。っていうか、いいよなぁ、「村上春樹」って。

 

◯この本は2016年9月新潮文庫で文庫化されました。

 

◯村上春樹のその他の本のレビューはこちら


◯現在発売中の「MONKEY vol.7」の川上未映子による「村上春樹インタビュー」はこの本の内容を補完するもので必読です。ぜひ!

2015.11.10 いろいろ終わって、虚脱感漂う日々。雨だし。読書は西川美和「永い言い訳」。

 

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