2014年に刊行され、その年の「このミスがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリーが読みたい!」ですべて1位。山本周五郎賞も受賞した米澤穂信のミステリー短篇集。僕自身は「ミステリー読み」ではないので、興味を持って文庫本を買ったものの、積ん読タワーの中に紛れ込んでいた。
今回、よし読んでみよう!と思ったのは、すでに当ブログで書いたように秋にNHKでドラマ化されるから。収録作6篇のうち3篇が1時間ドラマとして3夜連続で放送される。
個人的に一番好きなのは、ドラマにもなる「夜警」だ。冒頭、23歳の川藤巡査の死が伝えられる。彼は暴漢を説得しようとして切りかかられ、人質を守るために発砲したが命を落としてしまった。物語の語り手は川藤が配属された交番の上司、柳岡巡査長だ。柳岡は交番に配属された川藤の言動を見て、彼の警官としての資質に疑問を抱く。「川藤、ちょっと、厳しいですね」という他の部下の評価もそれを後押しする。さらにエピソードが重なり彼に対して「胃のあたりに不快な塊を感じる」ようになるのだ。
その後に起こった彼の死は、職務を全うした上での死だと思われたのだが、その裏には思いもかけない事実があった。真相を知るきっかけになったのは実兄の言葉、そして、川藤が死の直前に呟いた一言。しだいしだいに事の顛末が明らかになっていく。ううむ、巧いなぁ。抑制された語り口もいいし、この物語が一番技巧が凝らされているように僕は感じた。
他のドラマ化作品は、最後に殺人の真の動機が浮かび上がってくる表題作「満願」とバングラデッシュに赴任した商社マンがどうにもならない状況に追い込まれていく「万灯」。いずれも切羽詰まった人間たちがとる思いがけない行動が読むものの心を強く捉える。文庫の解説で杉江松恋がこの短篇集を読んだ時に
私は松本清張の有名な短篇と、それが収録された作品集を手にしたときの気持ちが蘇るのを感じた
と書いていて、なるほどなぁ、と激しく共感した。
◯ドラマ化の情報はこちら
2018.7.22 いやいやいや、もう暑すぎて何も考えられない。8月になったら秋、な〜んてことにはならないのかなぁ。読書は木皿泉「さざなみのよる」。
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