「三島屋変調百物語」シリーズの6巻目。三島屋の「黒白の間」で不思議な物語を聞く、その聞き手が今回、主人の姪で心に傷を持つおちかから三島屋次男の富次郎へと代わった。この交代は作者としてはかなり勇気がいるところ。富次郎がどんな聞き手になるのかが気になる。
全4話だが、なんといっても全体の半分以上を占める表題作が圧巻の出来。内容的にもおもしろい。三島屋と取引のある質屋の二葉屋、そこで働く女中のお秋からぜひ見て欲しいと一着の印半天が届く。その謎を解き明かしているうちに、次の語り手がやって来る。男は髪は真っ白で火傷の跡が目立つ四十路の男・梅屋甚三郎。彼の話はどうやら印半天とも関わりがあるらしい。
甚三郎が語るのは放蕩三昧だった10年前の出来事だ。金の無心に行った途中で道に迷い、彼は不思議な屋敷にたどり着く。そこには同じように神隠し?にあってやって来た5人の老若男女がいた。そこから始まるのはおどろおどろしい物語だ。怪魚が現れ、黒甲冑の侍が現れ、火山が描かれた襖からは噴煙が上がり、硫黄の臭いが流れ、溶岩が流れ出る。この屋敷の持ち主は一体誰なのか?彼らはなぜここに連れて来られたのか?印半天に隠された秘密とは?
物語はラストまで怒涛の勢いで進む。彼女の小説はどんな怪異を描いても最終的にはしっかりと人間を描いているのだが、この物語では、すべての始まりとなった屋敷の持ち主の魂が、その塊が読む者のすぐ側にゴロンゴロンと転がっている感じがして恐ろしい。富次郎の聞き手としてのひ弱さがこの物語をさらに際立たせているような感じもした。宮部みゆきは、相変わらず物語の展開の仕方、しまい方が巧い。
DATA◆宮部みゆき「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」(毎日新聞出版)1,800円(税別)
そなたは食い改めねばならぬ、どこからか男の声が聞こえた。
この屋敷は闇を抱えている。
2020.3.1 コロナ、コロナって言ってるうちに3月になっちゃった。今年はお花見も盛り上がらないなぁ。読書は窪美澄「いるいないみらい」。
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