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【エッセイ/書評】内田也哉子「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」ー母・樹木希林、父・内田裕也を続けて失った彼女が心のブランクを満たすため15人に会った「旅」の記録

 

 まずタイトルがいい。これは母親・樹木希林さんと父親・内田裕也さんを続けて失った彼女が心のブランクを満たすため15人に会った「旅」の記録だ。とにかくこの15人がすごい。

 

谷川俊太郎/小泉今日子/ 中野信子/養老孟司/鏡リュウジ/坂本龍一/桐島かれん/石内都/ヤマザキマリ/是枝裕和/窪島誠一郎/伊藤比呂美/横尾忠則/マツコ・デラックス/シャルロット・ゲンズブール

 

 「人生の核心的登場人物を失い空っぽになった私は、ありとあらゆる生業の、それぞれまったく異なる心模様を持った人間に出会いたい、と切望した」とまえがき的な文章にある。で、これ、対談集かと思ったら違った。養老さんなど対談形式のものもあるが、彼女自身がその内容を受け止め、エッセイとして書き綴ったものが多くを占めている。対談好きなので、最初はえ〜っと思ったのだが、エッセイの方が彼女がそこで何を感じ、何に反応したのかがよく分かる。直接会ったり、電話だったり対話のスタイルはいろいろだが、ほとんど編集者も交えず1対1で会ってるのに驚いた。そのためだろうか、本人と相手、それぞれの本音が強く出ているような気がした。

 

 対話の中で通底しているのは「生と死」、そして、「母と娘」。あとがきで「この連載は母や父という自分の中で大きくなりすぎた存在からの独立の願いも込めて始めた」とあるが、彼女の気持ちがほどけてきてるようでもあり、そうでないようでもある。

 

 養老孟司の話はやはり群を抜いておもしろく、さらに、桐島かれんと母洋子さんの話、是枝裕和監督樹木希林さんの話、伊藤比呂美の法華経の話、ラストのまさに内田さんと同じ境遇であるシャルロット・ゲンズブールの話など強く心に残るものがある。亡くなった谷川俊太郎さんとの濃密な会話も心に残っているが「死というものがないと、生きることは完結しないんです。僕は死んだあとが楽しみ」という言葉、そして「言葉は、土壌だ」という話が印象深い。

 

 あとがきで「空っぽを満たす旅に出たけれど、むしろブランクをもつことの豊潤さを、人と出会う度に教えてもらった」という呟く也哉子さん。彼女のこれからの旅の豊かさを祈りたい。

◆DATA  内田也哉子「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」 (文藝春秋)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)