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【エッセイ/書評】小林信彦「非常事態の中の愉しみ」-大震災後の日々を作家はどう生きたのか

 「本音を申せば」というタイトルで「週刊文春」に長い間連載されているエッセイの昨年度分をまとめたものだ。非常事態というのは言うまでもなく、3.11のことである。これは優れた時代観察者といえる小林信彦の目を通してみた、大震災以降の日本という国の記録だ。

 

 締め切りの関係だろう「非常事態」というタイトルで地震当日の模様が語られるのは3.31日発売号だ。その後「非常事態2」「非常事態3」と続き、とびとびとなるがこのタイトルで語られるエッセイは7まで続く。もちろん、それ以外でも原発のこと、被災地のことに触れた文章は多い。

 

 小林信彦という作家は直感的に物を言うことがある人だが、それが的を射ることもまた多い。大震災での政府の対応についても、早い段階で間違いのないことを言っている。しかも、その物言いはいつになく辛辣だ。そのあたりの感じは実際に読んでもらった方がいいだろう。

 

 筆者は震災時78歳だった。本物のインテリジェンスを持った78歳が非常事態をどう生き、何を感じたのか、それをちゃんとした言葉で語られるのを読む機会などそうそうあるものではない。だからこそこのエッセイは貴重だ。もちろんエンターテインメントに詳しい小林さんらしい話もいっぱい。まったく枯れたところなどないのも頼もしい。伊集院光のラジオを楽しみ、アイドルが好きで、最新の映画もしっかりチェックする。今の映画の話から、いつのまにか古い映画の話になるところなど、まさにこの人の真骨頂。飽きることのないエッセイである。

 

○この本は2014年7月「人生、何でもあるものさ 本音を申せば8」と改題されて文春文庫で文庫化されました。

2012.6.20 台風一過の東京はムシムシしてて不快指数アップ。こういうのが一番苦手だ。本は宮部みゆき「おまえさん」。

 

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