カメラマンであるキャパの傑作として名高い「崩れ落ちる兵士」。タイトルは知らなくても見れば誰もが「あぁ」とうなずく一枚だ。「ピカソの「ゲルニカ」と並ぶ、スペイン戦争のイコン」と作中で登場人物が語るその写真には、以前から疑問を呈する声があったという。
作者は伝記の翻訳がきっかけでキャパへの関心を高め、この写真に対しては「訳していく過程で小さな疑問が芽生え、やがてそれはみるみる大きなものになっていった」と言う。彼はその疑問を自分なりに解決するために動き始める。最初は同じ場所で撮ったと思われる数枚の写真を足がかりに。ついには現地まで飛んで。その取材や考察を通じて明らかになった「真実」。これには本当に驚かされた。え〜っそうなの?そんなことがあっていいの?
NHKスペシャルを見た人もいるだろうが、テレビはまず結論ありきだ。しかし、そこまでたどり着く過程こそがおもしろいので、ぜひ本書を手に取って読んでみて欲しい。その検証は精緻を極め、おそらく多くの人にとって納得のいくものであろう。長年ノンフィクションやドキュメンタリーに携わってきた作者ならではの観察力、洞察力の鋭さを改めて感じた。
ここで明らかになったことは、ある意味「裏切り」というべきものなのかもしれない。しかし、これは告発の書ではないのだ。「キャパの十字架」というタイトルでわかるように、この1枚の写真のために十字架を背負ったキャパという人間がそれ以降をどう生き、死んでいったか。作者はそれを描くことで、この一冊を見事なノンフィクション作品に仕上げたのである。
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◎「キャパの十字架」は2015年12月、文春文庫から文庫になりました。
2013.4.17 ボストンはやはりテロなのだな。みんなが心を解放して楽しんでいる場での卑劣な行為。許しがたい。読書は椎名誠「三匹のかいじゅう」。
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