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【書評】川上弘美「大きな鳥にさらわれないよう」-地球の歴史を俯瞰しているような深くて大きな物語

 連作短編ということでいいのだろうか。それぞれの物語はゆるやかに、しかし、緊密につながっている。この星の遠い遠い未来に始まって、さらに遠い遠い未来で終わる物語。人間由来よりも鼠由来やカンガルー由来、イルカ由来の子供たちが数多く工場で作られているという未来、設定は過激だが、不思議なことにこの未来はなんだか懐かしく「コンピューター」などという言葉が出て来るとドキッとしてしまう。

 

 「母」たち、大きな母、「見守り」と呼ばれるもの、未来を左右するヤコブとイアン、「15の8」と「30の19」という名のカップル、次々と奇跡を起こすアーイシャ、特殊な能力を持つカイラ、そして、エリとリマという「最後の2人」、印象的な登場「人物」が次々と登場する。そして、彼らの言葉に導かれるようにこの物語の輪郭が次第次第に見えてくる。

 

  今の世界とは地続きではないように見える世界だが、そこにいる「人間」たちはやはり人間なのだ。作者は遠い未来を描きながら人類をしっかりと見据えている。警鐘の物語のように見えるが作者はけっして希望を失っていない。滅びに向かって進むように思われた物語にもゆるやかでやさしいラストが待っている。地球の歴史を包みこみ、そのまま俯瞰しているような大きな物語。読み返すほどに発見があるような気がする。

 

◯この小説は2019年10月、講談社文庫で文庫化されました。

大きな鳥にさらわれないよう

川上 弘美 講談社 2019年10月16日
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