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【書評】佐藤多佳子「サマータイム」-この物語にはいつもピアノの響きときらめくような夏の光が感じられる

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 「一瞬の風になれ」ですっかりブレイクした感がある佐藤多佳子。僕は「しゃべれどもしゃべれども」あたりからのファンだが、デビュー作「サマータイム」は今回初めて読んだ。これは、佳奈と進という姉弟と片腕を交通事故で失った広一という少年の物語。4つの話が連作という形で収められている。佐藤多佳子はテンポのいい語り口が魅力の作家。ムダなく、気持ち良く、軽やかに話が進むから主人公たちにも感情移入しやすい。

 

 表題作「サマータイム」が第1話。佳奈が小6、進が小5、広一が中1、彼等が出会ったある夏の話だ。タイトルのサマータイムはあの名曲、広一がピアノで弾くスタンダードナンバーだ。彼の母はジャズ・ピアニストで、隻腕の広一もピアノを弾く。そして、佳奈も進も。彼らはピアノを弾くことを通じて、どこかで結ばれている。それぞれの物語は高校生になった進、佳奈、大学に通う広一の回想という形で語られる。「あの夏」の出会いから、それぞれの心に確かな変化が生まれ「今」に息づいている。ただの思い出ではなく、彼等の中でその出会いはとても大きなものだったのだ。

 

 気が強く、友達を引き連れて歩くような佳奈のキャラクターが抜群。広一の母友子や、そのボーイフレンド種田、調律師のセンダくんなど個性的な脇役たちもいい。そして、この物語にはいつもピアノの響きときらめくような夏の光が感じられる。初々しさいっぱいのデビュー作だがそれ以上に佐藤多佳子の巧さ、したたかさを感じる佳作だ。

 

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