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【書評】佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」-SNS時代のつながりをリアルに描いた青春小説の傑作!

 2017年の山本周五郎賞受賞作品。文庫で読みました。これはいいなぁ、もう少し早く読むべきだった。深夜ラジオ、それも実在した「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」のハガキ職人という設定の冨山が主人公。彼はいろいろあって大学を休学し、東京の実家を離れ、横浜の金沢八景で一人暮らしを続けている。実は冨山、接触恐怖症で特に女性が苦手。それが遠因となり、ちょっとした事件があり、SNSで拡散され、という流れで、とにかく彼は深く傷ついている。

 

 深夜のコンビニで働きながら、「アルコ&ピース」を聴きながら、冨山はただただ日々をやり過ごしている。彼の心はずっと夜の闇の中を彷徨っている。

 

  物語のメインになるのは、そんな冨山とコンビニのバイト仲間である鹿沢、昔からの友人である永川、コンビニの常連で女子高生の佐古田たちとの交流だ。そこに深夜放送はもちろんのこと、ニコニコ生放送、アメーバピグなどなどSNSワールドの諸々が絡んでくる。僕も学生の頃は深夜ラジオのリスナーだったけれど、今ではツイートしながら聴いたり、ハガキ職人たちの地位?も上がっていたり、僕らの頃とは取り巻く状況が全然違ってきているような気がする。とはいっても、これが特殊な物語でラジオファンでなければ理解できない、ということはない。反対に彼らが生きる世界がリアルに伝わって来てグイグイと物語世界に引き込まれていく。

 

 冨山は鹿沢など仲間たちとの不器用な交流を通して、少しずつではあるけれど自分らしさをとり戻していく。この交流はまさに「今」のもの。「今」だけのもの。この物語は現在の青春のちょっと情けない部分でのリアルさがあり、そのリアルさが共感を呼び冨山と同じような状況にある若者たちの救いになっている。

 

 作者が描く金沢八景あたりの風景描写、夜の描写が優れていて、そこには青春の哀切がある。読み終えた後で、冨山たちは今どうしているんだろう?そんなことを思ったりした。彼への共感は強い。これは間違いなく青春小説の傑作である。

 

 DATA◆佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」(新潮文庫)670円(税別)

 
◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉

 

深夜ラジオ、SNS、コンビニ、夜の彷徨…

うまくつながれない。でも、

そんな僕にも仲間たちがいる。

 

 

 ◯佐藤多佳子さん、他の本の書評や情報はこちら

 

 

2019.7.24 そろそろ梅雨明けするのでしょうか。テレビは吉本一色。読書は川上未映子「夏物語」。