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【書評】西川美和「きのうの神さま」-映画の取材でこぼれ落ちたエピソードを小説に!西川美和らしさが横溢する5つの物語。

 

 「きのうの神さま」というこの短編集、一編を除けば映画と同じく医療に携わる人々の物語だ。「ディア・ドクター」という話もあるのでまぎらわしいが、映画とは基本的には関係がない。作者が最後に書いているように、これは映画の取材でこぼれ落ちた「様々なエピソードや人々の生き方を」小説として蘇らせたものなのだ。映画の原作的な物語も読みたい気はするが、これはこれでスゴくおもしろい。

 

 西川映画のファンならば5つの短編のうち最後の「満月の代弁者」に強く惹かれるだろう。彼女の映画の魅力は、なんといっても虚実がない交ぜになったストーリーだ。虚が実であり、実が虚であり、結局、あいまいなまま…そのスレスレの感じがたまらない。さて、「満月の代弁者」。古い港町から都会に戻る若い医者がお別れに患者の家をまわっている。そのうちの一軒、そこには92歳の患者と彼女の面倒を見る30代後半の孫娘がいる。その家で医者は孫娘にちょっとしたウソをつく。「早く逝きたいよ~」とうそぶく92歳、女盛りで仕事もできるアラフォーの孫娘。医者が彼女にささやいたのは…。いやぁ~楽しい。2人のアブナいやり取りがたまらない!ラストも素晴らしくまさに西川ワールドだ。セリフのうまさもさすがで、西川美和の才能を再確認できる短編集といえる。

 

○「きのうの神さま」は2022年4月、文春文庫で文庫化されました。

 

 

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