手塚治虫文化賞で「新生賞」を取った市川春子のデビューコミック。受賞前から気になっていたのは、彼女が高野文子のフォロワーみたいな意見をネットで読んだから。フォロワーってあまりいい意味には使われない。同時に、そういってしまうには惜しい、という感想も。いずれにしても、高野文子は二人はいらないし、彼女のような才能はそうそういない。迷いながらも読んでみた。
表題作など4つの短編が収まっているが、そのうちでは「日下兄妹」と「虫と歌」がいい。高野文子の影響は確かにある。本の帯には「深くて、軽やか、新しい才能!」と書いてあるが、深度という意味では高野には遥かに及ばない。高野は深海まで潜っていけるが、市川はまだ海面付近でウロウロしてる、という感じ。しかも、息継ぎが浅い。
めざすところも微妙に違うだろう。「日下兄妹」は肩を痛めた投手と突然現れた異形の妹の話。「虫と歌」は3人兄妹が暮らす家に異形の弟がやって来る話だ。こういった「人間ではないもの」を登場させることでコミュニケーションを語ることは、ある意味、常道という気がしないではない。ただ、彼らの関係が深まっていくプロセスには市川らしさがあって好感が持てる。どうやら寡作の人のようだが、ちょっと後を追いかけてみたい。まだまだ変化する可能性がこの人の中にはありそうだ。次回作を楽しみに待とう。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。