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【書評】中原清一郎「カノン」-心はいったいどこにある?「カノン」の問いかけ

 物語としてはすごくおもしろい。ただ最初のうちは純文学風でこのままこういう感じなのかなぁ、と思っていたら、しだいに物語性が強まっていく。このあたり、作者の考えがちょっとわからない。迷いがあったのか…。中原は外岡秀俊の名でジャーナリストとしても活躍し、純文学の作家でもあるようなので、こういう書き方になったのかもしれない。

 

 「カノン」は海馬の相互移植をテーマにした近未来の話だ。末期ガンに犯された58歳の男、寒河江北斗が希望し、永坂という相手が現れた。永坂は記憶を失っていく難病に犯されている32歳。相手が若いので寒河江は喜ぶが、実は永坂は女性だった。彼女の名前歌音(カノン)がこの小説のタイトルになっている。カノンは4歳の子供のためにどうしても母親が必要と考え、この無謀とも言える移植に同意したのだ。コーディネーターの黒沢が2人を結びつけるという大きな役割を担っている。

 

 手術は成功し、寒河江の意識がカノンの身体に入る。海馬は記憶をつかさどる器官だ。肉体全体を制御する脳との関係は?心はいったいどこにあるのか?カノンの意識はまったくその身体から消え去ったのか?女性化、子育て、職場復帰と苦しみながらも一歩ずつ前進していく寒河江。さて、行き着く先は?

 

 エンタテインメントとして読むのもいいが、この小説にはいろいろと考えさせられることも多い。心とは何か?生きるとは何か?人間とは何か?作家・中原清一郎のこれからにも注目したい。

       

◯この本は2016年12月、河出文庫で文庫化されました。

2014.10.1 御嶽山、本当に大変なことに…。この国は地震も台風も火山もある。原発も。読書は津村記久子「エヴリシング・フロウズ」。

 

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