「本の雑誌」昨年度ベストテンのNo.1。あの「本の雑誌」が角田光代のようなビッグネームを1位にしたこと、大絶賛であったことに驚いて読んでみた。ま、最近の小説は全部読んでるけど。それにしてもこれは…。角田光代、恐ろしい。50歳前なのによくこんなテーマで書けるものだ。ま、それが小説家というものなのだろうけれど。
主人公は昭和8年生まれの春日左織という女性。この小説には戦争中に疎開を経験し、終戦時は小6だった彼女の67歳までの人生が描かれている。初めは一人の女性の一生という感じで読んでいたのだが、読み進めていくうちにそれだけではない、ということに気づいた。これは僕の親の年代にも近い、疎開派世代の女性たちの魂の在りようを描いた物語なのだ。そこには普遍性があり、心にグッと迫ってくるものがある。
左織は自らの運命に抗うことなく生きてきた。その生き方は自分の考えなどまるでないようにさえ思える。角田光代は疎開先で一緒だった風美子という女性を登場させることで、左織との対比を鮮やかに描きだしている。料理研究家で自分の思い通りに生きている風美子には、戦後の新しい風が吹いている。彼女はそのうち義理の妹になるのだが、左織は風美子に対して畏怖のような感情を抱き続け、家族を取られてしまうのではないかとさえ思ってしまう。
後半、時代が動いていく。不仲の娘はニューヨークに去り、夫は病に倒れる。昭和から平成へと年号が変わり、バブルの時代も見事にはじける。そんな中で左織はただただ呆然と生きているように見える。なぜかその姿に僕は強く共感を覚えた。こういう女性たちが確かにいた、という思い。そんな左織が下す最後の決断に心が少しだけ軽くなった。角田光代、これは必読の傑作小説!
◯この本は2017年6月、新潮文庫で文庫化されました。
◯角田光代のその他の本のレビューはこちら
2015.2.15 なんだかいろいろと停滞している気分。寒いしなあ…。読書は岩崎俊一「幸福を見つめるコピー」。
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