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【書評】絲山秋子「夢も見ずに眠った。」-妻の単身赴任、夫の鬱、そして離婚。その後も2人は旅で出会う

 この物語はおもしろいなぁ。おもしろいのだけど感想を書く段になるとその魅力を説明するのがなかなか難しい。ううむ。

 

 これは2010年から2022年までのある夫婦の物語だ。厳密にいうと2人は途中で離婚してしまうので男女の物語、と言った方がいいのかも知れない。男は高之、女は沙和子。冒頭の岡山の旅、2人は些細なことで喧嘩して別行動になってしまう。これは良くあることのようで、その後合流して土地の居酒屋で飲んでいたりする。このエピソードに代表されるように「夢も見ずに眠った。」で描かれる夫婦の関係はとてもリアルで共感を覚える。

 

 最初の岡山の旅から1年後、沙和子の札幌への異動が決まり、単身赴任することになる。婿養子である高之は地元熊谷に残り、義父義母との暮らしが始まる。その後、久しぶりに会った大津で彼の鬱がわかり、互いの気持ちのズレから2人は離婚してしまう。

 

  物語の舞台は家がある熊谷ではなく、彼らが共に旅をした場所や各々が訪ねた場所。夫婦の話なのに「わが家」で2人が話す場面はほとんどない。この設定がすこぶるおもしろい。夫婦の関係に旅や土地が重要な役割を果たしているのだ。作者は高崎在住で地方都市への思いが強い。そこに住む人、その土地の魅力を鮮やかに描き出すことに長けている。この小説でも、岡山、大津、盛岡、遠野、月島、江差、青梅、松江などなど舞台となった場所についての記述はディープでしかも美しい。

 

 高之と沙和子は、別れた後も旅の中で互いのことを考えている。旅という非日常が旅の記憶を呼び覚まし、人の記憶へと繋がっていく。土地への考察がいつの間にか人への思いへと変わっていく。最終章の「同じ場所にいることは、かけがえのないことなのだった」という言葉が印象的だ。この2人の関係はリアルではあるけれど、とてもユニークだ。2人の旅はまだまだ続く。心の彷徨は行き先が見えない。ラスト、沙和子の語る「思い」に、不思議な喜びを感じている自分がいた。

 

DATA◇絲山秋子「夢も見ずに眠った。」(河出書房新社)1750円(税別)

 

◯絲山秋子の他の物語の感想はこちら


◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉

岡山、大津、盛岡、遠野、月島、江差、青梅、松江…

その夫婦はいつも旅の中にいた。

互いの思いと向き合いながら。

 

2019.3.20  今までより人と会う機会が多いな。読書はピーター・スワンソン「そしてミランダを殺す」。

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