ううむ、いやいやこれはスゴい。宇佐見りん「くるまの娘」が今年の有力なベスト候補と思っていたのだけれど、これ読んじゃうとちょっと分からない。「まっとうな人生」は確実にベスト上位に入って来る傑作だと思う。それにしても、絲山秋子!彼女の最近の小説には凄みさえ感じてしまうなぁ。
福岡の精神病院を抜け出した男女2人の逃亡劇「逃亡くそたわけ」(2005年刊)、その登場人物である花ちゃんとなごやんがこの小説に再登場する。彼らはなぜか同じ富山県に住んでいて再会を果たす。花ちゃんは37歳で10歳上の夫アキオちゃんと娘の佳音と暮らしている。なごやんには妻の亜里沙さんがいる。花ちゃんには躁とうつを繰り返す双極性障害があり、そのことがいろいろな場面で彼女の思いや行動に影響を及ぼす。2019年4月から2021年10月までの話なので、当然コロナもその暮らしに影を落とす。富山ではよそ者のことを「たびの人」と呼ぶという。
花ちゃん自身のこと、花ちゃんとアキオちゃんのこと、なごやんとのこと、そして、富山の街のいろいろ。花ちゃんの一人称で語られるその文章はなんていうのか「絲山思想?」に満ち満ちている。小説でありながらそれらはいろいろな思いを巡らせている彼女自身なのだ。彼女にしか書けないその諸々!滋味溢れる文章にはいつまでも浸っていたくなる。
自分もムズカシク、家族も夫婦もムズカシク、友だち関係もムズカシイ。生きるということはほんとうにめんどくさい。それでもなんとかまっとうに生きていきたいともがき続ける花ちゃんがなんとも切なく、愛おしい。
◆DATA 絲山秋子「まっとうな人生」(河出書房新社)1720円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
◯絲山秋子、他の作品の書評も読んでみてください。
◯「逃亡くそたわけ」は古いので上の書評にはなし。再読したけどおもしろかった。
2022.7.15 コロナもかなり増えてきて明日から3連休。気をつけないと!読書は宮部みゆき「子宝船」。