個人的に村田沙耶香には注意報が発令されている。クレイジー沙耶香の毒気に当たるとなんだか変な気分になっちゃうからだ。それでも新刊が出ると気になって読んでしまうのはすでに中毒症状が出てるのかもしれない。
「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は表題作を含め4編が収録された短編集だ。ある意味クレイジー度は低いけれど、それぞれオリジナルでしかもちょっぴりキケンな物語ですこぶるおもしろい。4つの中で僕が一番反応したのは最後の一編「変容」だ。母親の看病が一段落し、久しぶりにファミレスでパートを始めた主人公の女性真琴(40歳)は、同僚の若者たちに「怒り」の感情が無いことに気がつく。久しぶりに会った友人とも怒りではなく「かわいー」でしか分かり合えない。
真琴は夫に対して「私たちは変容生物よ。所属するコミュニティに合わせて、模倣して、伝染して、変容するの。」「あなたが私に世界を伝染させてくれなかったら、私だけが取り残されてしまう。」と言い放つ。自分が「世間から遮断されているうちに、変容しそびれてしまった」ことへの恐れがあるのだ。
真琴は昔の知り合いで怒りを共有できる老女と再会し、意気投合。「怒り」のような「古い感情」を捨てて魂のステージを上げるというパブリック・ネクスト・スピリット・プライオリティ・ホームパーティーなるものに乗り込むことになるのだが。そこで主人公を待ち受けていたものは…。いやいやおもしろい。これは未来的は話のようだがもちろん今の時代のことでもある。「なもむ」とか「まみまぬんでら」など感情を表す造語に笑ってしまった。
「性別」が禁止されている学校に通う女子高生を主人公にした「無性教室」でもまた取り残される恐怖が描かれている。36歳になっても密かに魔法少女ごっこを続けることで生き延びている女性を主人公にした表題作、好きだった男の子を監禁してしまう「秘密の花園」もおもしろい。ううむ、村田沙耶香、まだまだ目が離せないな。
DATA◆村田沙耶香「丸の内魔法少女ミラクリーナ」1600円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
私の私は、これでいいの?
私の私は、正しいの?
◯この本は2023年2月に角川文庫で文庫化されました。
◯村田沙耶香、その他の本の書評や情報はこちら
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