作家の小林信彦が脳梗塞を起こし急遽入院したのは2017年4月のことだ。この本は同年11月から翌18年7月まで「週刊文春」に掲載された闘病記をまとめたものである。85年の人生でほとんど入院経験がなかった彼が綴る闘病生活、帯には「あたらしい闘病文学」と書いてあるが、こんな時にもその文章には小林信彦らしさが横溢している。
実はこの入院騒動?入院→退院というシンプルなものではなかった。緊急搬送された急性期病院からリバビリのための病院に転院。やっと退院できたと思ったら3週間後、水を飲もうとして転倒し、左大腿部を骨折。別の病院に入院し手術。さらにリハビリ病院へ。さすがにこれで終わりかと思ったら2ヵ月後に今度はなぜか記憶がないままに骨折してしまう。もうこの経過を読むだけでもおもしろいのだが(すみません!)、小林信彦はただでは起きない。看護師やリハビリスタッフ、同病の患者たちへのシニカルな視線と物言いには不謹慎ながらも笑ってしまった。しかも、夢だか現実だか分からないような記述もあり、とにかくまぁ、これぞ小林信彦!って感じなのだ。
結果的に左半身不随になってしまうのだが、最後の方ではドラマの話や三船敏郎の話など興に乗って書いてる部分もあってなんだか嬉しかった。小林さんはまだまだ死んじゃったらダメなのだ。これからもぜひぜひおもしろい小説やエッセイを書き続けて欲しい。あ、忘れてた。脳梗塞についての記述。「とにかく、生きていても、死んだ時と同じような状態になってしまう。呼吸はしているのに、息を引きとったあとのような、世の中の音がすべて消えてしまったような感覚は独特である。」、ううむ、母も義父もこんな感じだったのかな?やはり病気は恐ろしい。
DATA◆小林信彦「生還」(文藝春秋)2000円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
半身不随でも
全身小林信彦。
2020.5.6 千葉の地震が2夜連続でなんだか心配。こんな時に大きなのが来ませんように!読書は村上春樹「猫を棄てる 父親について語るとき」。
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