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【書評】宇佐見りん「くるまの娘」ーこれはもう年間マイベスト候補!父の暴力、母の病、バラバラになった家族が祖母危篤の報を受け車中泊の旅に出る

 

 「かか」「推し、燃ゆ」に続く宇佐見りんの第3弾!「推し、燃ゆ」から入った人は最初はかなり戸惑いがあるかもしれない。しかし、ひとたび物語の中に入ってしまえばこれはもうノンストップでグイグイグイと読み進めていく以外ない。物語のパワーは最強のレベル。いやいやいや、宇佐見りん、とんでもない!

 家族の物語だ。しかし、地中からドカンと噴き上がってくるこの物語のマグマはいったい宇佐見りんという23歳の作家のどこにあるのだろうか?どこでグツグツと煮えたぎっているのか?ただただ驚くばかりだ。これは決して「才能」という言葉だけでは言い尽くせないものなのだ。

 主人公のかんこは17歳。父母と共に住むが兄はこの家に耐えられず家を出、弟も祖父母の家へと去ってしまった。母は脳梗塞の後遺症で記憶が怪しく、その苦しみのためか情緒が不安定だ。父は普通の人間だが、子供達が幼い頃からひとたび火がつくと人が変わったように残酷になる。見境なく暴力を振るい誰彼なく罵倒する。かんこ自身も心身ともに疲れ学校に行くのもやっとという状況だ。すでに崩壊してしまっているような家族が祖母の危篤の報を受け、片品まで車中泊の旅に出る。過去の話と現在の話が交錯する。そしてこの旅でも、昔と同じように家族は諍いを起こし、父が怒り母が泣き叫ぶを繰り返す。これは一見、特異な家族の物語のように見えるが実はそうではない。ここで交わされる様々な会話、それに対する反応、そのリアルは家族の普遍と言ってもいい。だから読者はこの物語を受け入れるのだ。

 いろいろあった終盤、かんこは「あのひとたちはわたしの、親であり子どもなのだ」と言う。「まだ、みんな、助けを求めている」「愛されなかった人間、傷ついた人間の、そばにいたかった」と。自立を最善の在り方だと教えられる現代社会が正しいのか、とも。ラスト、「なんで生きてきちゃったんだろうな」とつぶやく父の慟哭が激しく胸を打つ。この家族の地獄は昨日も今日も明日も僕らみんなが共有している地獄なのだ。それでも僕らはこの日々を生きていくしかない。
◆DATA 宇佐見りん「くるまの娘」(河出書房新社)1500円(税別)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)

 

◯宇佐見りん「かか」の書評はこちら!

◯「推し、燃ゆ」の書評はこちら!

 

2022.6.20 何だかまた暑くなって来た。犬の散歩も時間を選ばないと。読書は朝井まかて「ボタニカ」。 

 

 

 

 

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