映画が公開中。監督が「ケイコ目を澄ませて」の三宅唱。彼が目を付けた話なら、と文庫本を手に取った。
同じ会社に勤める男女2人。それぞれの語りが1章づつ交互に繰り返される。女性の藤沢さんは大手企業にいたがそこを辞めていまはこの会社・栗田金属に勤めている。冒頭、彼女が入社間もないもう1人の主人公・山添君に食ってかかる場面が印象的。「本当に嫌だ」なんて本人に向かって言っちゃう。さらに前の会社の上司との強烈なエピソードも紹介される。彼女は生理の日やその2〜3日前にどうしようもなく苛立ち、怒りを爆発させるPMS(月経前症候群)なのだ。
次の章では山添君の語りで彼がパニック障害を発症した時の様子が語られる。彼も当時の会社を辞めざるを得なくなり栗田金属にやってきた。全体の中では発端に当たる最初の2章が突出していい。生きづらく、思うようにはいかない日々が続く2人。彼らが少しずつ距離を縮めていくエピソードが描かれていく。常道だとここから2人に恋が生まれたりするのだけど、そういう気配は微塵もない。
なんだかおもしろいのが藤沢さんのキャラだ。山添君を強制的に散髪しようとしたり、一人で観た「ボヘミアン・ラプソディ」に感動して家に押しかけ歌いながら語り出したり。なんだか知らないけどユニークでトボけた味がある。一方の山添君もちょっとおもしろい。この2人のキャラが物語を支えている。
2人に恋が生まれそうな気配はまったくないのだけれど、いろんな出来事を通してそれぞれが夜明けに向けて少しずつ踏み出していく。「俺はすべてから切り離された場所にいるわけではない」という山添君の言葉が胸に迫る。そして、2人の関係も最初とは微妙に変化してゆく。同じような病気に苦しむ人、今の世の中に息苦しさを感じている人にとっては救いになる物語。ラストの盛り上がりがもう少し欲しい気もするが、こういうテーマを取り上げたことだけで評価は高い。
2人に恋が生まれそうな気配はまったくないのだけれど、いろんな出来事を通してそれぞれが夜明けに向けて少しずつ踏み出していく。「俺はすべてから切り離された場所にいるわけではない」という山添君の言葉が胸に迫る。そして、2人の関係も最初とは微妙に変化してゆく。同じような病気に苦しむ人、今の世の中に息苦しさを感じている人にとっては救いになる物語。ラストの盛り上がりがもう少し欲しい気もするが、こういうテーマを取り上げたことだけで評価は高い。
◆DATA 瀬尾まいこ「夜明けのすべて」(文春文庫)*今カバーが映画版になっていますがそのカバーを外すと従来のカバーが付いています。
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
夕日は必ず朝日になる。今の俺は
そのことを確かに知っている。
◯映画のホームページはこちら!
2024.3.28 なんだか今週はバタバタしてるなぁ。やれやれ。今読んでるのは町田その子「52ヘルツのクジラたち」。
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