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【書評】町田その子「52ヘルツのクジラたち」ー他のクジラとは違う高い周波数で鳴くクジラ。その声は永遠に誰の心にも届かないのか?

 

 2021年の本屋大賞受賞作。未読だったが映画が公開されたのを機会に文庫を手に取った。他のクジラとは違う52ヘルツという高い周波数で鳴くために、その声が届かず、受け止めてくれる仲間がいなかったといわれるクジラから取ったタイトルだ。

 この小説、もっとソフトな話だと思っていたので語られる主人公たちのハードな境遇にちょっと驚いた。東京から大分にある海辺の小さな町に越してきたキナコ(本名は貴瑚)という女性が主人公。彼女が人生を搾取されてきた東京時代の話が回想として語られる。義父や母に打たれ、さらには病に倒れた義父の介護に明け暮れていた日々。そこで出会ったアンさんという男性の存在が彼女を救う。しかしその人は…。彼女は逃げるようにして昔祖母が住んでいた九州の家にやって来たのだ。

 

 大分で彼女が出会った自らをムシと呼ぶ少年も母親から激しい虐待を受けており、キナコは彼を体を張って守ろうとする。それは彼女が52ヘルツの声をあげていた時にそれを受け止めてくれたアンさんへの償いでもあった。「第二の人生では、キナコは魂の番(つがい)と出会うよ」と言ってくれたアンさん。少年との暮らしの中で次第に自分を取り戻していくキナコ。少年もまた少しずつ彼女に心を開いてゆく。「一度目は声を聴いてもらい、二度目は声を聴く」、キナコは2つの出会いを思い、出会いから受けた喜びを忘れてはならないと強く思う。魂の叫びのようなラストが素晴らしい。
◆DATA 町田その子「52ヘルツのクジラたち」(新潮文庫)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)



◇52ヘルツで鳴くクジラに関するニューズウィーク日本版の記事


◇映画は杉咲花主演!